第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
布団を頭まで被っていた蝶だったが、布団を弱々しく握る手は昨日までよりも青白かった。
それを見ただけでもゾッとする。
自分の脳内に浮かんだ想像をかき消すように、何も考えないでいられるように輸血の準備を始めた。
後ろでは蝶に点滴が施されている。
本人は我慢して表に出すまいとしているのだろうが、俺からしてみると怖がりきっているのがよく分かる。
身体的にも弱りきって、あいつの中で恐らく一種のトラウマと化している注射行為を一人で耐えて。
俺を呼んでくれればすぐにでも飛んでいって抱きしめてやれるのに、どういうわけか呼んでくれない。
それどころか、俺の方に顔を向けてすらくれない。
そのくせ点滴を繋がれた感触が恐ろしいのだろう、震え続けているのに強がってか俺に頼らないこの少女。
自分へのやるせなさと、蝶に対する少しの怒りで、つい蝶を暫く見つめ続けていた。
首領は、注射が怖い蝶に気を遣い、俺の方に先に輸血の針を刺した。
このレベルの針になれば、流石に大人でも少し呻き声をあげてしまうものだ。
しかし隣には、俺より小さくて怖がりで、本当はそんなに強くなんかないくせに意地と根性だけは一丁前な、愛らしいあいつがいる。
怖がりで痛がりなこいつの隣で呻き声なんかあげて、余計に不安にさせてはならない。
針が刺される痛みになんとか声をあげるのを堪え、一息つく。
隣の蝶を見ると、相変わらず顔は見せてはくれないが、相当体に力が入っているのが見て取れる。
何とか針を繋ぐことが出来たのか、俺の血が管を通って、蝶の腕の中に入っていく。
血が抜かれている箇所が脈打っているのが分かる。
あいつとこうして血を分け合うのは三回目となるわけだが、輸血中にお互い意識があるのは今回が初めてだ。
「……なあ、蝶」
首領が退室してから声をかけると、ピクリと蝶の肩が震える。
しかし返事はしてくれない。
「こっち、向いてくれよ。本当に焦ったんだ、ついさっきまで家であんなに元気だったお前が、そんなに衰弱してて」
そこまで言っても、こっちを向こうとしない蝶。
暫く黙って待っていれば、次第に小さな声が聞こえた。
『…んでっ、何で、来ちゃうんですか。私が勝手にバテてるだけなのに、何で中也さんが来ちゃうんですか』
「俺には、来て欲しくなかったのか?」
『………はい』