第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
今日の仕事は、簡単な報告書と書類整理だったため、ポートマフィア本部の執務室に朝から篭っていた。
報告書、というのも、蝶についての首領の個人的な疑問に答えるだけのもの。
身長はどれ位伸びたか、食べ物の好き嫌いは変わっていないかなど、以前と違ったものが無いかの確認のようなもの。
仕事、というよりは情報収集というか、首領の趣味…個人のしたい事というか。
そんな風に、特にどこかへ出るようなこともなく、幹部としては穏やかに一日を過ごしていた時だった。
「中原君、いるかね?」
扉をノックされ、響いてきたのは紛れもない首領の声。
どうして首領がわざわざ俺の執務室なんかに?
「はい、いますが…わざわざどうして首領が一人でこんなところに?」
「芥川君が、探偵社の人虎の捕獲作戦に失敗したらしく、重症でね。輸送船ごと爆破された上に戦闘でかなりの深手を負っていたのだが…驚くべき人物が、私に助けを求めて部屋まで運んで来たのだよ」
首領が俺個人にそんな話をするだなんて事を考えると、一つの仮説が思い浮かんだ。
そしてそれは恐らく正しい。
「蝶、ですか?探偵社があいつを呼んだのなら、芥川とも親しかったみたいですし、納得がいきます。」
そしてその言葉を聞いて、悪い予感がする。
多分、蝶に何かあった。
「流石中原君。そう、正解だ。だかしかし、そこで今問題になったんだが…あの子の性格だからねえ、街への危害等を危惧したのだろう。“壁”を酷使したらしい」
壁、あれは蝶があまり使わないようにしていたはず。
しかし首領の言う蝶の性格、街への危害というキーワードから、何をしたのか想像がついた。
「!輸送船が爆破されたって…まさか、あんなでっかいものを丸ごと囲って!?」
「ああ、その通りだ。彼女は今医務室にいる。どうやら学校に戻ってしたい事があるそうなんだが、やはり輸血を躊躇っていてね?今説得してきたところなんだよ」
輸血という懐かしい響きが耳を震わせる。
「首領が輸血をさせるってことは、相当衰弱してるんですね蝶は。…急いで行ってもいいですか」
気持ちがはやる。
すぐにでもあいつの元に行ってやりたい。
「ああ、体温も大分下がっていたようだしね。走っていこうか」
なんで輸血するのを躊躇うんだ。
それも、相手が俺だからなのか?
医務室で横になる蝶を見たら頭の中が真っ白になった。