第15章 大切な人
餓鬼、という単語に反応しそうになりはしたが、一応武装探偵社の看板を背負って名前がしれてしまっている以上、あまり下手な事は出来ない。
相手は敵でも犯罪者でもないのだから。
『え、と…』
「何?食えねえって?さっきまであんだけ食ってたのに」
「ちょっと、あんたら普通に考えなさいよ?こんな女の子にチャラチャラ男が寄って集ってたら怖がるでしょ」
「武装探偵社が?怖くねえよな、ちょっと照れてるだけだもんな~♪」
『…ッ!……ぁ、あの…』
馴れ馴れしく肩を組まれてそれにビクついてヒヤリとする。
それでもここで嫌な顔でもしようものなら相手が不機嫌になって余計にやりにくくなるだけだし、怖がるような素振りなんか意地でも見せたくなんかない。
良くも悪くも得意な笑顔を浮かべて言葉を返そうとすると、そんな暇もなくもう一人の人が私に話しかけてくる。
「ほらほら、美味しそうだろ!食ってみろって♪」
『…あの、私本当に連れ待たせてるんで、席に戻っ……ッ!?』
「あ、悪い手ェ滑ったわ~」
頬にヒヤリとした感触。
それがなんだかとろりとしていて、甘いにおいからすぐにそれがクリームであると理解した。
二人の女の人もなんだか楽しそうにしているけれど…何がそんなに面白いの?
なんで、自分の恋人が他の人にこんな風に絡んでいて、笑えるの?
___なんで、この男の人は私にこんなに密着してくるの?
「あーあー、かわいー顔に何してんだよお前?」
「だからこれは不可抗力でだな?あー…お詫びにくっついちゃったクリームお兄さんが取ってあげますね~……ほっぺたにちょっとチューしちゃうかもだけど♡」
『え…ッ、ちょっ、それは「はいはい、暴れない暴れない♪俺ら別に悪いことしてるわけじゃないんだし、痛いことしないでよ武装探偵社さん」ぁ…や、やめ…』
流石に何も言えなくなった。
怖い、それしか無い。
周りの女の人達も抗議をしてはいるが、相手が男の人ともなると中々体なんて張れないのが女の人だ。
寧ろ下手に立ち入らないのは正解だとも思う…
けど、私に寄る男の人が目の前にいる。
手なんか解こうと思えば出来るけれど、さっき口に出された通り、私が無理矢理この人の手を振り払ったりなんかしたらどんな言いがかりを付けられるかなんか分かったものじゃない。
だけど能力なんかこんな人前で使いたくなんかない…