第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
「大丈夫だよ蝶ちゃん、一番細いのでするから…そんなに泣かないで」
『泣いてなんか、ないです…痛くしないで、っ』
怖いものはもちろん怖い。
だから、怖いから泣いているんだって自分に言い聞かせる。
「…うん、輸血もあるし、一番痛くないところにしよっか」
首領はきっと分かってる、そして中也さんに言わないでいてくれる。
『……っぅ、…ん、』
唇を噛んで、恐怖とチクリとした痛みに耐える。
左手の甲から栄養剤がじわじわと流れ込んでくるのが、何となく感覚で分かった。
中也さんの目の前でみっともないところなんて見せたくない。
そんな気持ちから、中也さんに顔を見せたくなくて。
「首領、蝶の様子は!?」
「今点滴を入れたところだ。すぐに輸血に入るから、中原君はこっちの寝台に…中原君?」
中也さんからの視線を感じた。
「は、はい…すみません、お願いします」
隣の寝台に、彼が横になる。
そしていよいよ、輸血が始まる。
ただでさえ、痛い注射は苦手なのに。
中也さんの前で、子供みたいに泣き叫んだりなんて出来ない。
顔なんか絶対見せられない。
「まずは中原君の方からするね」
「っ…ありがとうございます」
もう針を刺したのだろうか。
やはり針を特別怖がる人というのは、余り多くはないらしい。
首領に左腕を撫でられ、更に体に力が入る。
『ふ、…っ、……首領?』
しかしいつまで経っても、覚悟している痛みがこない。
「…ごめんね、知っているとは思うけど輸血用のは細くはできないんだ。頑張って」
気遣ってくれていたのか。
優しさが心に染みるものの、やはり恐怖心が先走って、まともな返事が返せない。
コク、と頷くと、腕に冷たい感触が伝わった。
『ひっ……ぁ、っ…………』
思わず声を漏らしてしまった。
でもダメ、我慢しなきゃ。
隣には中也さんがいるんだから…ただでさえ今、迷惑かけてるんだから。
体に針が刺さっているこの何とも形容し難い不快感と恐怖に、体が動かなくなる。
おそらくこのまま暫く、この針の感触を味わい続けなければならないのだろう。
そう考えただけでも、素直に中也さんに頼れない今の私には孤独感が襲いかかる。
心の底から、泣きつけたらいいのに…。
「うん、入ったよ。よく頑張った蝶ちゃん!後は終わるのを待つだけだ…それじゃあ私は暫く席を外すね」