第15章 大切な人
消滅の能力が扱えるようになったのならば、私だって本来の力の三分の二程は扱えるはずだ。
十八や二十一にもなれば能力自体は完成するけれど、流石にまだそこまでの力はこの世界においては出せそうにない。
両手を胸の前で合わせて、ゆっくりと手を離していくと、その中から煙のようなものが流れ出す。
「!?ち、蝶?お前それ何やって…!!!」
『……綺麗でしょ、蝶々だよ』
手を開ききって出てきたものは、半透明の…しかし質量を持った、触れる蝶。
触ってみてと中也に促せば、恐る恐るそれに指を伸ばす中也。
「……ッ!?冷た!!?何だこれ…氷……?」
『正解!大気中の水蒸気を集めて氷にしたの。分子間の運動を無理矢理とめてくっつけちゃえば出来るから…しかも動かせるんだよ』
ヒラヒラと舞う氷の蝶。
ああ、懐かしい感覚だ。
『使ったの何十年かぶりだけど、こういう事も出来るんだ。十五で出来るようになる身体だったんだね、私』
「………魔法か何かですか?これは」
『他の世界だとそう呼ぶ世界もいくつかあったよ。ただこの世界には魔法のエネルギーになるような粒子がほとんど無いから、どっちかっていうと異能力…私個人の能力だね』
「よ、よく分からねえがとりあえずお前がすげえって事だけはよく分かった…改めて」
造った蝶を消して中也さんの方に顔を向けると、面白いものを見たという顔をしている。
興味津々だったらしい、相当面白かったのだろうか。
『まだこの世界で解明されてない自然発火の理論とかも私は熟知してるからね、それに私の能力が色々と応用利いて便利だし…消滅の能力が使えるようになったなら、割ともうなんでもし放題だよ』
「そ、それって因みにどの程度なんだ?例えばさっきの氷なんかだと…」
『んー……ああ、人間くらいなら簡単に氷漬けに出来るよ。盾にしたり武器にしたりも出来るし…正直自分の能力自体よりも便利だと思う』
「氷漬けって…お前スペック上がりすぎじゃね?」
『えへへ、それほどでもあります♪』
「末恐ろしいわ、頭もきれるし………ってお前さ、もしかしてこの世界で能力が特別扱いにくかったってんならよ…?」
中也さんがひきつり笑いになりながらこちらを見る。
それにニコリと笑顔になって、中也さんに向き直って明るい声で返事をした。
『うん、私今、史上最弱の状態だよ!』
「末恐ろしい…!!」