第15章 大切な人

「あー可愛かった、ごっそうさん」

『……意地悪嫌い。意地悪中也さ…嫌い』

「まあそう拗ねんなよ、お前がいい反応してくれんのが悪い。…んで？散々お預け喰らった蝶さんよォ……そろそろ名前で呼ぶ気になったか？」

『！…わ、たしは……中也さんが、最近変に大人っぽいから…余計に……っ』

「俺が？…まあ、もうやる事までやってるしな。遠慮しなくなっただけだろ」

そうか、それで…？
中也さんも、やっぱり男の人なんだ…って事は、私の事ちゃんと女の子だって意識してるってこと？

『……中也さん、私のこと女の子だって意識してるんだ？』

「…少し違ぇな、そりゃちょっと前までの話だ。……俺はお前の事、ちゃんと一人の女としていつでも意識してるさ」

『へ、ぇ…？………中也…』

「！なんだ？」

『…………って呼んだら何でもしてくれるかなぁって』

「………………正解」

途端に頭に両手を置かれて、わっしゃわっしゃと撫で回し始める中也さん。

『わっ！！？ちょ、中也さ…ってなんで止めるの！？』

「お前今さんって付けかけたからな」

子供か。

『…………自分から撫でてきといてそれ？…ふ、二人だけの時なら呼ぶ……努力は、する』

「…合格、可愛い」

『だっ、今日もうそれいい！！可愛い禁止！！』

「ぷっ、はいはい。超絶可愛い」

『それ同義語！！禁止っ！！！』

「はいはい……そんじゃま、ちょっとこの食器片付けて来るわ、脚まだ完治はしてねえだろうし大人しく待ってろよ」

中也さんにﾎﾟﾝﾎﾟﾝ､と頭を数回撫でられてから、少しだけ頬を膨らませてその背中を見続けた。
悔しい、いっつも私ばっかりいいようにされてる気がする。

……ああ、だけど中也さんがあれだけ呼ばれたがってるんだ、もう後悔しないようにするためにもちゃんと呼べるように努力しよう。

あんな思いはもう二度とごめんだ。





「蝶、悪い待たせ…ってもしかして眠いか？」

『眠くないよ、中也が戻るの待ってぼーっとしてた』

ﾍﾗﾘと笑えばそうか、と中也さんも少し笑った。
そして上体だけを起こした状態の私の隣に腰掛けて、何かｶﾞｻｶﾞｻと物音を立てる。

何かと思っても見えないし、中也さんも教えてくれないしで暫く待っていれば、中也さんに後ろを向けと指示された。

素直にそれに従って後ろを向けば、中也さんの手が髪に触れた。