第15章 大切な人
試しにもう一回、もう一回…と繰り返し白色の蝶を舞わせるのだけれど、それでも扉は作れない。
形になろうとすれば電気か何かに弾かれるようにバチッと音を立てて蝶がバラけてしまう。
これだ…久しぶりすぎて全然意識していなかった。
『や……った…!中也さん、これ!!分かる!?』
「………紙が、消えた…?」
『うん!!消せるようになった…これなら壁を使っても、何とか貧血にならずに済むかもしれない!!』
「本当か!!?……ってなんでだ?」
私の能力は、効果は違えど対象の範囲は変わらない。
実際に存在するものであれば、触れるものでも見えないものでも、何でも私が認識しているだけで操作対象にする事が出来る。
私の壁の能力は、そもそも大気中に含まれるとある種類の粒子をエネルギーとして使うもの。
それは人の血液成分と似ているのだけれど、目視はできないエネルギー…そしてその粒子は、各世界において濃度が全く違うのだ。
この世界にはその粒子がごく微量しか存在しないか、全くもって存在しないかのどちらかだったのだということ。
だから私の身体から放出するしか方法がなかった……が、ここにきて存在を消すことの出来る能力が扱えるようになったのなら。
『壁を扱う時に、血液を消費しなくちゃならないっていうシステム自体を消しちゃえばいいんだよ…これで中也さんに迷惑かけずに済むね』
「……俺は迷惑だと思った事は一度もないが、お前が辛くならなくなるんならそれでいい…が、それでもしこれから何か不調でも出ればすぐに俺に言え。分かったな」
『う、うん……ねえ中也さん?』
「あ?何だ」
『そ、そのさ……その…あの…………』
中也さんから再び顔を背けてもにょもにょと口をどもらせる。
言ってもさっきまであんな変な状態だったわけだし…恥ずかしいし。
『……ッ、き、今日帰ってきたけど…しない、の?』
「しねえって…何を?」
『へ……ッ、!!!』
中也さんが再び私の上から覆い被さるように顔を覗き込んできて、どこを見ていいのか分からずに思わず目を瞑ってしまう。
今見たらやばい…こんな距離で久しぶりの中也さんなんて直視したら…
「ほら言えよ、言わねえと分かんねえぞ」
『や…っ、絶対分かって「分からねえなぁ」…〜〜〜察して!!!』
「…仕方ねえ、今日はお前の誕生日だからな。特別だ」