第15章 大切な人
「酒自体を飲んだわけじゃねえだろうし、まだ前ほど酔いも酷くねえだろ?ほら、もう火ィ着けてっから消してみろよ」
『中也さんも一緒に「ダメ」え〜……あ、ねえねえ写真!中也さんの写真!今撮る!!』
「は?今…って……あー分かった分かった、その代わりお前も入れ」
『うん、中也さんのとこいる〜♡』
「……軽く酔ってるくらいが一番素直だなお前」
撮り方がよく分からないと言えば中也さんが私の携帯を手に取って構える。
「ほら、可愛い顔して笑っとけ?」
『やだ、中也さんとこいる♡』
「は?…え、おまっ、ちょっと待……ッッ!!?」
中也さんの胸元に飛び込むように抱きついた直後にシャッター音が小さく響き、中也さんごと床に倒れ込んだ。
『えへへ〜、びっくりした?びっくりした??』
「お、前…っ!そうだ、変な撮り方になって……!!!…」
中也さんは携帯の液晶を確認して、目を丸くしてからぷっ、と小さく笑った。
「蝶、お前…いい顔してんじゃねえか。本当、こういう時は無邪気に笑ってくれるよな」
『?可愛い??』
「……可愛い。…ほら、ケーキとっとと食うぞ。今度こそロウソク吹き消せ」
『はーい』
中也さんに言われた通りにロウソクの火を吹き消すと、チョコプレートの文字がちゃんと読めるようになった。
だけど頭がぼうっとしていてハッキリとは読めなかった。
けれど、嬉しいって感情だけは確かにある。
きっとこれが世間一般の誕生日というものなのだろうけれど、私からしてみればたいそうなことだ。
『中也さんいつの間に作ってたの?』
「昨日仕事終わってから作っといた。家に持って帰ってきたらお前気付くだろうからと思って拠点の食堂借りてな」
『それで連絡も無しでギリギリまで寝てお仕事してたんでしょ?』
「……ほら、もう食えるぞ」
はぐらかされた。
絶対図星だこれ。
なんて思いつつも切り分けられたケーキを見ればそんな気持ちもどこかへ行く。
『!!美味しそう!!!』
「俺も上手くはなってるからな…召し上がれ?」
『うん…い、いただきます!!』
ケーキを一口口に運ぶと、甘い味が口の中いっぱいに広がった。
大好きな味で、ふんわりしたスポンジなのにパサパサしてなくてしっとりしてて……
『美味し……ぃ…ッ?……っひゃぅ…!』
「!?」
カラン、と手からフォークを落とした。