第15章 大切な人
「そういえば蝶ちゃんってさ、いつから中也さんの事好きだったの?」
「ブッ!!?」
『え、私…?ええ……いつだろう』
「あれ、意外。てっきり凄い勢いで即答するかそんな事聞かないでって恥ずかしがるかと思ってたのに」
『あー…そう?』
少しぼうっとしているのが声にまで表れる。
流石にこのままではいけないなと思ってスプーンを置き、いつだったのかを考え始めた。
『んー…でも私も自覚したのは初めての経験だし、いつからとかっていうのは覚えてないかも?』
「「「え、初恋!!?」」」
『え!?…た、多分』
「!」
多分といった素直な私の返答に、皆目を見開いて衝撃を受けたような顔になる。
『……分かんない、あんみつ食べてたら色々ちょっと思い出して…』
「まさかの三角関係勃発!?あ、相手は太宰さんとか!?付き合い長そうだったし!!」
不破ちゃんの声にううん、と即答すれば、またもや目を丸くされた。
『ノリは確かにあんな感じだったかもだけど、違うよ。口悪かったし、ふざけてばっかだし…あ、そっか、私中也さんに甘い物作ってもらった時に好きになったんだ』
「「「え、単純!?」」」
「お前あんな昔の!!?」
『うん』
「あんなド素人が作ったひでえ出来のやつでか!!?」
『ん、美味しかったよ』
きっかけなんて些細なこと。
名前が付けられた事や誕生日をもらったことは、確かに今まで経験した事が無いほどには嬉しいものだったし、それで更に中也さんの事を大事に思うようにはなった。
けど、それよりもっと以前から、私はこの人に心を開きかけていたのをよく覚えている。
『ごめんね中也さん、ちょっと不快にさせるような話しちゃったかもなんだけど』
「!いや…いいよ、お前の事情は俺がよく把握してっから。それにお前言ってたじゃねえか、“自覚したのは”初めてだって」
『あ……うん、そうだね。…やっぱり中也さんって凄いなあ、世界一凄い人だよ中也さん!』
「お前にそれ言われっと真面目に照れるからやめろマジで」
未練がないと言えば嘘になってしまうけれど、そういう関係であった時間はきっと私達には無かったから。
これでいい、何にも知らなかった小さな頃の、ただの幸せだった思い出でいい。
『えへへ、中也さん今日帰ったら何かまた作ってよ』
「……阿呆、とっくに作ってあるっつの」