第15章 大切な人
私の初恋はいつだっただろうか。
ごく最近な気もするし、ちっちゃい頃だったような気もするし……覚えてないだけで、気が付いていなかっただけで、封じ込めただけだったような気さえする。
頭の中に思い浮かんだシルエットを自分の中にしまいこむように目を閉じて、元気にしてるかな、今もちゃんと生きてるかな…ちゃんとご飯食べていつもみたいに馬鹿なことして楽しく過ごしてるかな、なんて考える。
なんにも知らずに生きていたあの頃。
私の身体を作り替えてくれた分にはとても感謝はしているけれど…事前にそうだって教えてくれなかった澪の親には、そこに優しさを感じていたり少しだけ何でなんだよって今でも思ったり。
『………美味しい…』
「!美味しい?新作の白玉あんみつ…の餡子抜き!」
『ん、美味しいよ。すっごい幸せ』
磯貝君の声に現実に引き戻されたような気分になりながらも、どこかふわふわしていて夢の中にいるような。
本当の意味でまだまだ小さな少女だった頃、きっと分からなかっただけで私はこういう感情を抱いていたのだろう。
「お前があんみつ食うのは初めて見るな?今まで口に出したことなかったのに…餡子は無ぇみてえだけど」
『ん〜……うん』
「?…考え事か?」
『へ?う……!?ち、違う!!!何も考えてないし!!』
「うおお!?そ、そうか!!!」
ガタッと机に手をついたのを下ろして、今更ながらになんともいえない感情になる。
数百年ぶりにあんみつだなんてものを食べて、最初の世界を思い出して気が付いた。
私が中也さんに抱いているものほど大きく深いものだったかといえば、正直ここまでまだ育ってはいなかったであろうあの気持ち。
今更になってそんな事に気が付いて、やはり思ってしまうのだ。
なんで気付かなかったんだろうって。
口も態度もそこまで女の子に優しいものなんかじゃなかったとは思うけど、今になって思えばどこか中也さんと似ているような気がしないこともない。
本当、初恋って実らないものなんだなぁ。
私の場合は実るも何も、気が付く前に終わらせる道しか残されてはいなかったのだけれど。
『……ねえねえ中也さん、今日肩車してみてよ』
「あ?あー……!?肩車!!?お前小せえ頃にあんだけ嫌がって『今日はしてみてほしい気分なのー』…暴れやがったら叩き落として姫抱きだからな」