第15章 大切な人
『!だ、から中也さん悪くないって先に言って…』
「いや、俺が少しお前が大人な部分に甘えちまってただけだ。……お前、産みの親の事は何か…なんでもいい、覚えてることは……ねえのか」
『……うん、知らない。顔も、声も名前も…誕生日も歳も知らないの。なんで結婚したのかも、なんで…私を産んだのかも知らない。…………私、生まれた時から普通じゃなかったから。気付いた時には何にも与えられずに拘束されてて、たまに男の人とか女の人とかから痛い事されて…気付いたら、何にも食べたり飲んだりしてないのに、六歳にまで育ってた』
私の小さな小さな声に、中也さんがピクリと反応する。
六歳というのはお互いの中で暗黙のラインとなっており、そのワードを口にする時は“そういう話”をする時だって決まってる。
『それで、色んな人の話し声を聞いてるうちに、その国の言語は理解して…外の世界に、私のような存在はいないんだって事を知った。他の子達は皆私みたいな変な身体で生まれてきたわけじゃなくて…親っていうものが育てて、可愛がられて、優しくされてるんだって、初めて知った』
「………お前は頭が良いからな、そんな生活で話し声だけでよくそんな事が理解出来たもんだ」
『へへ…それで試しに、気味の悪い力があるんなら抜け出せるんじゃないかって………親や誰かが殺してくれないんなら、自分で死んじゃえばいいんじゃないかって、自殺した』
「!じ、さつ…?お前、六歳で自殺って……」
『…………結局その後、最初の世界での私の名付け親に身体を作り替えられて、こんな体質になっちゃって…私さ、今どれだけ頑張っても死んでこれなかったじゃない?…死んだんだよ、一回だけ。六歳の時にちゃんと、死んだ』
中也さんの腕に少し力が入る。
そりゃあそうか、この人は知らなかったんだもの、私が一回本当にしんだ奴なんだって。
『それからは…まあ、話したら中也さんの頭がパンクしちゃうくらいややこしい話になっちゃうからさ。死んだ身体をたまたま天才科学者が弄って生き返らせちゃったとでも考えててよ……結果中也さんに会えはしたけど、言ってみればもっとすごい化物が誕生しちゃったってわ……ッ?』
「…お前が化物なら、俺はお前と一緒にはいねえ……お前は、ただの人間だ…この世界に来たんなら、お前のそれは誰がなんと言おうと異能力だ!!………文句、あるか…」