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第15章 大切な人


『ひ…ッ…ゃん……っ!』

「保冷剤ごときに変な声出すんじゃねえよお前は!!」

『だ、だっていきなりこんな事…っ』

「冷やしてるだけなんだからいかがわしく聞こえる表現やめなさい!!!」

『い、かがわし…っ?……こんな事しなくなってすぐに治るのに』

私の声に、中也さんは少し空気を重たくして口を開く。

「…………お前、ああいう事があったんなら俺に言えば良かったじゃねえか。…なんで、相談してくれなかった?」

『え…いや、相談っていうかあんなの子供のただの陰口で「カルマの奴が言ってたろ、今日ああいう事を口にしてた奴は結構多かったそうじゃねえか…お前みたいな性格の奴じゃ、気にしてねえ方がおかしいだろ」……気に、してないもん……蝶、には中也さんがいるから…っ、だから何にも気にして、ないもん……!』

じんわりと滲む視界が全てを話してしまいそうで、怖かった。

そうだよ、その通りだよ、気にして気にして思い出して、中也さんもいないし誰にこんな気持ち伝えたらいいかなんて分かんないし…中也さんになんて言えっこなかったし。

「蝶…何が辛かった?嫌な事はあったんだろ、ちゃんと言え…約束する、誰にも言わねえから。お前はいい子でいちゃいけねえ時をちゃんと知らねえといけねえ。それが分からねえのは、悪いとは言わねえが…俺はあまり好きじゃねえ」

『!!……ぁ…中也さんのせいじゃ、ないの…ッ、ほんとに、中也さんが何か至らないとかそういうんじゃなくって…』

「分かってる、お前が心配してるほど俺はお前の事信用してなくねえから…本当、なんでそんないい奴なんだよお前?だから余計にしんどくなるっつうのに」

中也さんはいつの日からか、私に悪いという言葉をあまり使わなくなった。
多分、私が怖がるから。

その代わり、中也さんが私の中で大切な存在であるということに気が付いてからは、自分はこんな奴は好きじゃないぞ、そうされるのは嫌いだぞという言い方をするようになった。

そういう言い方をされると、素直に話してしまうものだ。
包容力を感じてしまうものだ。

やっぱり、親の愛というものに重ねてしまうものだ。

『……わ、たし…学校行くのも初めてで、今日初めてこんな大きい行事になって……知らなかった、の…普通の子の親は、こういうところを見に来るものなんだって。………子供のこと、見に来たいものなんだって』
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