第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
『船以外のものも入っちゃってるけど、ごめんなさいっ!』
輸送船の残骸を、纏めて船の廃材置き場に移動させ、脱力して座り込む。
隣に寝かせている芥川さんはひどい怪我だ。
中島さんは恐らく虎化の影響で超速再生が効いているだろうから、心配しなくてもいいはずだ。
しかし、芥川さんは指名手配犯。
その上私は武装探偵社の社員ときた。
与謝野先生にも頼れない私が行く先は、もう一つしか残されていなかった。
多分、いる…あの人なら、緊急事態だって分かってくれるはず。
立ち上がる気力もない私は、芥川さんに体重をかけないよう彼に覆い被さり、この状況を打破するために、数年ぶりに“あの場所”へ行く事を決意した。
『もうちょっとですからね、芥川さん…きっと、大丈夫ですから』
何とか白い蝶が集まって扉は完成したが、もうそこまで芥川さんを背負って動ける気はしなかった。
そのため、片手で扉だけを開いて、その場所にいるであろう人物の名を呼ぶ。
芥川さんから手を離しては彼が移動出来ないだろうから、失礼にあたりながらも、こうする他に手段が無い。
「ん、何故いきなり港町が…!君はっ、どうしたんだい!?何があった、蝶ちゃん!」
『“首領”っ、芥川さんを、助けてっ…私、動けなくて』
そう、扉の先は、ポートマフィア本部、森鴎外の部屋。
“元医者”の首領なら、きっとなんとか出来るはず。
「ああなんという事だ!待っていてくれ、すぐに助けるよ!」
扉を開けた手を首領の部屋の中へと伸ばすと、それを掴んで中に引き入れてくれる。
首領の部屋にいた黒服の男の人が二人ほど手伝ってくれ、なんとか私も芥川さんも中に入る事が出来た。
『ごめんなさい、許可もなく勝手に…でも、このままじゃ芥川さんがっ』
「うん、よく連れてきてくれたよ、君も衰弱している様子だ…二人を医務室へ!」
首領は私の頭を撫でながら黒服の人達に指示し、担架で私と芥川さんを運び出すよう促してくれた。
『ありがとう、ございます…』
もっと私に力があれば。
もっと私に知恵があれば。
隣で運ばれる芥川さんを見て、一人呟いた。
『………どっちの味方にもなれたらいいのに』
探偵社とポートマフィアが、敵対していなければ。
どっちも苦しまなくても済むはずなのに。
医務室の寝台で横にされ、首領は芥川さんの治療のために席を立った。