第15章 大切な人
『……無いなぁ…』
「どうしたの?」
浅野さんと別れてからE組のテントに戻り、自身の荷物の中を漁る。
持ってくるの忘れた?いや、今日に限ってそんなことは…
『ううん、別に無くても問題ないものだし…』
「何何??中也さんとのツーショット写真とか?」
カエデちゃんの言葉にいつもなら酷く大きな反応をしてしまうところなのだけれど、今日ばかりはそんな気分にもなれそうにない。
今は、何故だかそんなに中也さんの名前を聞きたくはなかったから。
私と一番近い人…だからこそ少し遠い人。
私を受け入れてくれた人………だからこそ、少し分からない人。
中也さんの事が嫌いだからとか、そういった理由でないことは確かだった。
けれどやはり、聞いてもどこか胸がもやもやするばかり。
なんでこんなところで中也さんの名前が出てくるんだろう。
みんなも……それに、私も。
『中也さんとのツーショットなんて私持ってないもの、あったとしたら絶対忘れな「えええええ!?無いの!!!?」ええ!?う、うん!?』
「普段あんなにラブラブなのに!?イチャイチャしてるのに!?一枚も持ってないの!!?」
『も、持ってるもの…なの……?』
「あるでしょうそりゃ!!それに何より家族みたいなものじゃない!」
『!……家族って、一緒に写った写真を撮る持ってるもの…?』
私の質問にカエデちゃんはキョトンとして、それからすぐに何かを察して慌てて言い方を変え始める。
「ち、違うの!皆ってわけじゃないけど…中原さんすっごい蝶ちゃんの事溺愛してるし、てっきり…」
『溺愛って…………まあ、中也さんに撮られたことならあるけど…』
「やっぱりあるんだねそこは…蝶ちゃんは、中原さんと写真撮りたいなんて思わないの?」
『……………あんまり分からないかな、そういうの』
一緒に写真を撮るなんて行為自体慣れてないし。
撮った経験が無いわけじゃあない。
けど、どこかそこまで踏み込んじゃいけないような…
私みたいな存在が、普通を真似たところで…なんて考えが邪魔をする。
「ううーん……!あ、分かった!!じゃあさじゃあさ、逆に中原さんの写真が欲しいな〜とかは??」
『ち、中也さんの?どうして??』
「ほらほら、考えてみてよ!いつでも色んな中原さんとの思い出が見られるんだよ!」
中也さんの写真…大事な人の、思い出……?
