第15章 大切な人
「ねえねえ蝶ちゃん、今日何回か聞いててすっごく気になってたんだけど…覚えてるとか、思い出してとか……」
『え?…ああ……』
カエデちゃんの声に合わせて皆がこちらを見る。
さっきまで向こうは向こうで磯貝君のイケメン談義に夢中だったのに。
言っていいものかと思いながら中也さんの方をちらりと見れば、私が言う前に中也さんがあっさりと口にした。
「そりゃあ、俺が敵に頭をやられて記憶障害になってたからだ。手前らの事もしっかり覚えてはいたんだが、蝶の事だけは本当に何も覚えていなくてな…今日の昼間にようやく蝶のおかげで、最近の事を思い出し始めたってところだ」
「え…ち、蝶ちゃんのことを…?」
「あ、あの中原さんが!!?」
「別に隠すような事でもねえから言いはするが、本当に何も覚えてなかったんだよ蝶の事は。蝶の情報のデータも自分で粉砕しちまってたしな」
「え、ええっと…それでやっとまた交際スタート……って事、ですか?」
中也さんがそれを肯定する返事を返し、片岡ちゃんを初めとする皆の目線がこちらに向き、コク、と小さく頷いた。
「そりゃあ蝶ちゃんの様子も変わるわけだ、学校いる間なんかずっとお仕事片手に忙しそうだったし…あとやっぱり寂しそうだったし」
『でも中也さん、記憶戻る前に私に告白してくれたよ?』
「「「「ブッ!!?」」」」
「て、手前蝶っ!!一体何を『あ、手前って言った』あああ!!?」
焦ってついつい手前って言っちゃう中也さんは、今は多分本当に前ほどの意識が無いんだと思う。
中也さんが私に手前って呼ぶのやめたの、中也さんと一回離れる前だったし。
『手前なんて呼ぶ人私は知りませーん』
「今のは咄嗟の……っ、てかなんでそんなに嫌なんだよ…いや、確かに口調は強ぇかもしれねえが」
「あ、それ私も思ってた。蝶ちゃん、中原さんから手前って呼ばれる事にだけはいつも反応してるし…あ、後中原さんも面白いくらいにごめんごめんって謝ってる」
「面白いくらい…!?」
前に言ったような気もするんだけどな…
あれ、別の人相手だっけ?まあいいか。
とりあえずは中也さんの脳を下手に刺激しない程度のものを挙げておこう。
『…ちょっと丁寧な呼び方にされたら、特別扱いされてるみたいで私はすっごい嬉しいの』
「さあさあ蝶さん、パフェ食べような。可愛いお前はパフェを食べようか」
