第15章 大切な人
恐る恐る、ゆっくりと後ろに首を回すと、息を切らして顔を青くしている中也さんがそこに……え、待ってなんでいるのこの人?
さっきあれだけ頑張って撒いてきたはず。
『……は、ハロー中也さん?さっきぶ「お前もう一回頭叩かれてえのか?あア?」やっぱりさっきの中也さんよね!?思いっきり何かで叩いたよね!!?』
フライパンでしょ、絶対そうでしょ!!と問い詰めると違ぇよ!!と同じ勢いで返される。
わざとらしく…というか本当に一瞬痛かったので頭を両手でさすれば、中也さんが私の目の前に顔をズイ、と寄せた。
「なにがフライパンだよ、なにが!?これのどこがフライパンだ!?俺がお前の頭にフライパンなんざぶつけるわけがねえだろ、よく考えてから言え莫迦!!」
『ば、莫迦って何が……?…え、これ……えっ!?待って待って、なんでそんなに準備いいの中也さん!!?』
「準備も何もお前が突然木から足滑らせて落下したから、無事だけ確認して買いに行ってきたんだよ!!」
『十分も経ってないよね!!?ていうかなんでわざわざそんな……ッ、たぁ…!?』
今度は中也さんに指でデコピンされ、そこを手で押さえる。
すごい音鳴ったよ今!?でもそんなに痛くないんだよね流石中也さん!!でも音が痛い!!!
「買ってきてみりゃ…何人前で脱ごうとしてやがんだお前は!?わざわざ人が、お前が脚出すの苦手なの知ってて来てやったら!!」
『な、なんで中也さんそんな事覚えて!?……!じゃない!ち、違うもん!!岡島君が、出してた方がいいって言うし…脱いだら恥ずかしがり屋が治るって!!』
「おいおい、俺は何も「岡島ァ…」ひぃっ!!?」
「手前俺の見てねえところで蝶に何を……まあいい、今日のところは許してやる。とりあえず蝶、お前これに履き替えてこい。“くれぐれも”野郎共がいねえところでな」
中也さんに袋に入ったタイツを渡され、それをパシッと受け取って確認する。
え、これで叩いたの?
どうすればこんな柔らかいものがあんな凶器に……ああ、そうか中也さんだからか。
無理矢理自問自答を終えてから急いで履き替えに行く。
否、行こうとした。
『……中也さん中也さん、お仕事は?』
「仕事?んなもんお前と飯食ってる内に終わらせてきたぞ」
『え、そんなに量少ないはずが…「お前が無駄によく働いて仕事減らしてくれてたからな」私か……!!』
