第15章 大切な人
「そんでもって蝶さんよぉ?いい度胸してやがったのは俺にも責任はあるから置いておくとして…お前、まだカルマの所に住んどくのかよ」
『!………ど、うしよ…?』
「……お前の好きにすればいいが」
中也さんの言葉は優しさあってこそのものなのだろう。
でも、そこはそうなの?
嫉妬深いって言っておいて…それだけ独占欲が強いんだって示しておいて、私の自由は全然奪ってくれないの?
私は…
『…じゃ「が、ここまできてお前をみすみす逃がしてやるつもりはねえよ」……え…?』
「飼い猫なんだろ?俺の。出て行くなんていう選択肢が出てくるもんなら鎖に繋いででも逃がしてやらねえよ」
『!……本当…?ほ、本当に?』
「本当に決まっ……ってお前、そこでなんでちょっと嬉しそうにしてんだよ!?引くか嫌がるか怖がるかとかあるだろ他に!?」
『い、いや…なんか久しぶりで……嬉しく…て……』
ニヘラ、と笑ってみせると中也さんはまた目を丸くして、それからよしよしと私をまた撫でてくれる。
これくらい言ってくれる中也さんの方が好きだ。
これくらい…私を束縛してくれる中也さんが、好きだ。
私以外なんか見えなくなってしまえばいい、他の誰かと同じ扱いなんていらない…私だけが、この人の中の“一番のトクベツ”になれればそれでいい。
中也さんは自分の事にしか気が付いていないだろうけれど、私はもっと嫉妬深いから。
もっともっと、独占欲も強いし面倒な女だから。
「お前、俺にここまで言わせておいてまだ平気なのかよ…大した奴だな、本当」
『…中也さんのものになれるならそれでいい。………気付いてない?私、中也さんよりもっと面倒で嫉妬深い女なのよ?』
「!……へえ、言うようになったじゃねえか?だが生憎、お前は確かに女だが…純粋無垢な女の子ってところだろ、お嬢さん?」
『………女、の子……そ、っか…』
初めて言われた…ような気がする。
心からちゃんと接することの出来た人。
この世界に来てからというもの、人として扱われてきた事自体がそこまで多くないように感じられていた私としては、そんな事さえもが暖かく感じられる。
そうか、私…女の子でいいんだ。
…この人の前でなら、子供でもちゃんと“私”を見てもらえるんだ。
「どうした…?」
『…ううん……やっぱり中也さんだなあって』
「敬称外す気ねえだろそれ」