第1章 蝶と白
私が自分の能力の事を、異能とは少し違うと前途した理由は、ここにある。
「蝶ちゃん、お願いだ、やめてくれ!」
結界の中で叫びつづける太宰さん。国木田さんは、悔しそうに歯を食いしばっている。
分かるだろうか。
人間失格を異能力とする太宰さんが、私の能力や私自身に“接触しても効果が消えない”のだ。
『……大丈夫ですよ。すぐ元気になりますから!』
一言、笑顔と共に声にして、医務室の中へと入る。
寝台に寝かされている谷崎さんとナオミさんを見て、銃弾で撃たれたものと、芥川さんの異能にやられたものだと言うことは判別した。
『待っててくださいね。傷、直しますから__』
私が行う治癒とは、シンプルなものである。
言ってみれば、空間の置き換え…つまりは、負傷者の傷を、別のものに媒介させるというもの。
負傷者の傷に触れ、能力を発動すれば、その傷を私が媒介することが出来る。
要するに、
『……………いっっ〜〜〜〜〜!!!!ぁああ、あ…っ、』
傷の“移し替え”。
ただ、流石に瀕死の重傷二人分はキツい。
いくら傷の媒介に慣れてる私でも、少し油断しただけで気が持っていかれる。
けれども、私ほど、媒介役として適任な者はいないのだ。
『ぁ、………っ、は、ぁ……、』
傷を移し替えたことにより、赤く血に染まった制服の背中部分。
しかし、その下に空いたはずの傷は、既に塞がっていた。
谷崎兄妹から手を離し、少しふらついた足取りで医務室を出ると、すぐに国木田さんと太宰さんを結界から解放した。
「白石!!この馬鹿者が!何度言わせれば分かるんだ貴様は!?」
「君は自分の体をもっと大切にしなよ、じゃないと私達だって気が気じゃない…今回は倒れなかったようで、とりあえずは安心したけども。」
『ごめんなさい。でもほら、こうすれば皆さん怪我はなくなりますし、私なら……』
これを言うと、いつもバツが悪そうな顔をされる。
『私なら、傷を負ったってすぐに再生するんですから。』
「……蝶ちゃん、再生するからというところは、問題じゃないんだ。確かにそれに救われる事はある。でも、!」
太宰さんの言葉を、人差し指を前に出して静止する。
国木田さんはよく事情が分からないみたいだけど
『大丈夫、もう元気だから。』
__でも、それじゃあ、中也が助けた意味が無いじゃないか__