第14章 わからない人
『!…全部?』
「とても一人じゃ完食できねえような量だからな、そんなに俺の事舐めてっとどうなるかを…っ!?」
「お、おお……効果的面…流石中原さん、記憶ねえのに蝶の扱いが分かってる」
「待て立原、俺はいつもこいつにどんな教育をしてきてたんだ」
ひと品ずつ、ゆっくりと…それでも確実に箸を進めていく。
ご褒美が中也さんからのキス?願ってもないようなものだ。
正直自信は全くないけれど、そうでもしなきゃ自分からなんてせがむ勇気、もう私には残ってない。
…触れてほしい。この人に触れたい。
ずるいじゃないですか、散々私にキスを好きにならせておいて自分だけ記憶無くしちゃうなんて。
こうなったら自分の方からする勇気がなくなっちゃうなんて。
私、自分からする勇気の持ち方なんて教えてもらって無かったのに。
『……ッ、…』
しかし食べ進めている内に、やはり暫くすると箸は止まる。
食事をするような気分じゃないなんて分かってた。
ただでさえ食べるのは苦手なのに、こんな状況で満足に食事なんて出来ないってことくらい。
皆も話を再開したりと好きなように過ごしていた所で、箸を置きはしなかったものの、口の中に食べ物が入れられなくなった。
……美味しいのにな。
悔しい…こうなる事が悔しくて悔しくて堪らない。
なんで私は自分で中也さんのご飯が食べきれない?
なんで私の身体は、こうも食事を受け付けない?
「蝶…?」
『!!た、べる…食べるから……時間かかっちゃうだけだから待っ…』
「……飯食うのは元々苦手なのか?あまり胃を使ってこなかったな?」
『な、にを…』
「見りゃ分かる、無理をさせてる事くれえ…それにあんな環境じゃ、まともな方法で栄養を摂ってはこなかったんだろ」
実験の映像で覚えているものでもあったのだろうか。
そんなところまで見抜かれた。
「だが流石にその量じゃお前の身体が心配でならねえんだが……普段どれくらい食べてた?」
『…今食べてた分引いたら…中也さんにいつもこれ位は…』
用意されていた料理を使って、手でそれを区切るようにして示した。
するとそれを見てから取り皿に料理を取り分けはじめ、普段の残りのノルマともいえるような量の料理が差し出される。
「んじゃ、こんだけ後食っちまえ。ゆっくりでいいから」
ああ、やっぱり敵わない……