第14章 わからない人
流石に紅葉さんには気付かれた。
「ち、蝶!?来てたのか!!?」
「あの子がいなければ今頃中也の唇はどうなっていた事か…ほれ、私がお主に触れられぬよう壁まで張られておる」
コンコン、と私の出した壁をノックするように叩く紅葉さん。
「出てくればいいではないか、さもなければ中也のは私やここにおる誰かのものになってしまうぞ?」
「なるわけねえだろ!!とっとと酔い覚ましてくれ姐さん!!!」
「ち、蝶ちゃん来てるの?ほら、中原さんもいるし……!」
チラリと中の様子を確認してから、一歩中に足を踏み入れた。
樋口さんなんかはかなり心配していたのか、本当に嬉しそうな顔で私を見ている。
「ち、蝶…今のは姐さんがふざけていただけでな!?別の奴とんな事するつもりはさらさら『なんで謝るんですか?』は…っ?」
『だって、別に謝る必要ないじゃないですか。不可抗力ですし…それに、私と貴方は別に何も関係なんて無いんですから』
「蝶!?お前ここでなんでんな事をッ」
『………紅葉さん、私がここに来てるの知ってたんでしょ?そんなにしたいんだったらお好きにどうぞ…私もう戻りますんで』
紅葉さんが酔っているのは事実だが、恐らく立原とグルだったんだろう。
じゃないとこの人が中也さんに迫る理由が無い。
「ほう、流石じゃ、気付かれておったか……じゃが蝶、“関係ない”と言う割には、随分と頭にキておるようじゃのう?私に殺気を向けるなど初めてではないのかえ」
「「「!!!」」」
『立原に言われて来てみて、何かと思えば男女の公開キスを見せられるだなんて笑えもしないでしょう?殺気なんて出したつもりはありませんが…』
「ほう、立原に言われて来てみたのか……あれかの?女子が集まって居ると聞いて心を決めて来たんじゃな?」
『そんなわけないでしょう?お酒が置いてあるって聞いたから様子見に来ただけですよ』
「中也に酒が入って女子に絡み始めると、何か不都合があるから来たのでは?」
目を丸くして紅葉さんと目を合わせた。
それから目を細めて口角を上げ、今度こそふつふつとしたものが湧き上がってくる。
女性って本当に油断ならないな、なんて意地悪な人なんだろう。
『不都合?あるわけが無いでしょう、ただ他の方が対処に困るかと思って「中也に触れられるのも嫌がるようなお主がか?」……喧嘩売ってます?紅葉さん』