第14章 わからない人
「いいけど、中原君は本当、随分と蝶ちゃんの事が気に入ったらしいね?」
「…気に入ってるというよりは、気になっちまって仕方ねえんですよ。放っておいたら無茶でもなんでもしそうで危なっかしいっていうか」
「流石は親バカだ。それに初めて顔を合わせた時に殺さなかったのも君らしくない…責めているわけじゃあないんだけれど、以前の君からは考えられないような行動だった」
傷の一つも作らずに、首領である僕に相談しようとするだなんて
バレていたか、流石だこの人は。
「……傷は付けちゃいけねえような気がしたんすよ。最初は勿論すぐにでも殺してやろうと思いましたが…あいつを見たとたんに上手く身体が動かせなくなりました」
「うん、それで正解だよ。日頃の行いのおかげだね…これであの子が傷つけられでもしていたら、今よりもっと話を聞いてくれなくなっていたかもしれない」
「俺が女に対してこんな甘い手段を取ろうとしたのは初めてですよ。俺自身が一番驚いてますし…」
「前の秘書の子にはかなりきつい対応だったのにねえ?ナイフ突き立てて血まで流させて」
あれでもかなり我慢していたはず…というか、そもそもどうしてそんなことになったのかさえ思い出せない。
確かに前の秘書であるあの女に対して、俺はかなりの殺意を抱いて殺しかけたことがある。
それは認めるが…
「……なんで俺が、部下になるはずの女を殺しかけたんですっけ」
「…その子が蝶ちゃんに刃物を向けたからだよ。正当防衛というかなんというか…蝶ちゃん強いからそんなに気にしてなかったとは思うし軽くあしらってたけど、中原君は頭にきちゃってね?」
蝶ちゃんが退室した後に怒っちゃった
軽く言われるその言葉に、またもやどこかで納得した。
「まあ、納得しました…今でもそんな事があったら、何故かは分かりませんけどそう動いちまうような気がします。……ところでその正当防衛って、あの女に対してあいつの方から攻撃を仕掛けたってことですか?」
「おお、いいところに気がついたね。その通りだよ。あの子にしか分からないような部分もあったけれど、それ以外にも可愛らしい理由があってね…」
「他人に攻撃仕掛けるのに可愛らしい理由ってなんすかそれ」
口角を引き攣らせて聞くと、思いもしていなかった返事が返ってくる。
「蝶ちゃん、中原君の事ですっごい嫉妬しちゃったからさ」