第14章 わからない人

「………確かにそうだ、君の言う事にもっと耳を傾けていればこうはなっていなかっただろう。…だが、許可は出来ない。少なくとも今はだめだ」

『！！今私が最も憎い相手を自分で殺すことの何が＿＿』

「中原君との約束だからだ…！！」

首領の声に、私も中也さんも肩を跳ねさせる。

この人だって辛いんだ、それは私もよく分かってる。

『………約束？』

「君は今とても冷静だとは言えない状態だ、現に今、約束を忘れて動こうとしているだろう」

『ごめんなさい、今かなり頭がぐちゃぐちゃなんで…でも首領、私が動くのは許可して下さいましたよね？』

「勿論したさ。でも蝶ちゃん…君が殺しをするのはダメだと、それだけは守ってよと約束しただろう？」

目を丸くして首領の言葉を頭の中で繰り返す。
驚く程にすうっと胸の中に入ってきたその言葉。

人殺しだけはもうしない、それだけは絶対にもうしない。

都合のいい私の頭は、そんな似たような言葉で誤魔化される。

『…っ、まだ守らなくちゃいけないんですか…それ……』

「ほら、思い出したらもう冷静になってるだろう…素直になりなさい、今は怖いことがいっぱい重なって気が動転してるんだから。困惑して怖がってるのに、甘えられる人がいないのは辛いことだ…辛いのが人間だ」

『誰に甘えろって言うんですか…？今私に、誰に甘えろなんて言えるんですか……っ』

「君を甘やかしていないと気が気じゃなくなるような親バカは、記憶が無くても君には甘えて欲しいみたいだが？」

ﾁﾗ､と首領が目をやった方を見ると、まだ動揺したままの中也さんと目が合った。

「………首領、こいつの家族は？」

「君だけだ。君がこの子にとって唯一無二の、家族とも言えるような大事な人間だ」

「……妙に餓鬼らしくなくてイライラする時があるんですが、それは俺だけっすか。」

「他も皆心配してるけど、君は特にそうだろうね…ああ、でも蝶ちゃんは繊細な女の子なんだ。あんまり怖がらせないであげてくれ…特に君は」

何故か、どこか腑に落ちたような顔付きになって中也さんは私の腕を軽く掴み、引き寄せた。

突然のことにそのまま身体をそちらに動かせば、中也さんはしゃがんで私に目線を合わせる。

「………話、してくれるか？蝶」

『…澪』

「俺は蝶と話がしたい」

『ｯ、…蝶って呼ばないでよ……っ、中也さんの馬鹿…！』