第14章 わからない人
「な、なな中原さん!?ど、どうして貴方ともあろう方がよりによって白石さんを…っ」
「記憶無くても身体は覚えてるもんなんでしょ、大事なところで怒れなくて何が保護者だよ…殺せんせー、とりあえず俺ら一旦戻ってイトナ君の様子見に行こう」
二人の会話がどこか遠くで聞こえたような気がした。
反動で横を向いた顔を正面に向け、ジワ、と軽く…本当に軽く熱を帯び始める左側の頬に手を当てる。
「な、中原君…?止めるのは確かに大事だけど、蝶ちゃんにも今かなり複雑な事情があって…」
殺せんせーとカルマが退室してから、首領のフォローが入ってくる。
「…複雑な事情って何ですか。さっきから聞いてていい気持ちしねえんすよ………首領、こいつ一旦俺の執務室に連れてっていいですか?」
『!?ま、待って!!私今からまだ行かな…ッ』
目をこちらに向けられて、咄嗟に口を閉じた。
というよりは、目が怖くて何も言えなかった。
「まだ行かないとって、君まさか今から殺しに行くつもりだったのかい!?そんな状態で許可できるわけないだろう!?」
「!殺しに…?俺に何の情報もねえような仕事を?」
『だ、って……早くしないとまた…っ』
「招集をかけて監視下に置いておくから!とりあえず君はまず落ち着くんだ!!」
首領の声に何かの糸がはち切れた。
落ち着けって何?
まず落ち着く?落ち着いて…首領の監視下に置いて、何になるって言うの?
『…それで首領の部下が殺されたら!?それでまた……っ、また同じような事が起こったらどうするんです!!?』
「私の前でならそんな真似はまだしない!!だから…」
『だから何なんですか!!私が個人で動かないようにしてたから…っ、知らない内に?私がそばにいない時に?いつの間にか殺されかけてたんですよ……っ?』
私の言葉に首領は言葉を詰まらせる。
この人に当たっても仕方が無いのに、本当に悪い奴。
『分かります……?いきなり緊急のアラートが鳴って、それで見てみたら…ッ、トウェインさんが応じてくれなかったら!?すぐにでも傷を塞げなかったら!!?』
「手前、首領にさっきから何を…」
『相手の異能が分かってるんですよ!?それも私じゃないと対処出来ないような!!それでもダメなんですか!?これでまたこんな事があったら……私はどうすればいいんですか…ッ?』
もうまともな声も出なかった。