第14章 わからない人
「…蝶ちゃん、とりあえず今日は中也さんのとこにいたら?その方が安心でしょ?」
『………だめ、それはだめ』
私の弱音は届いてはいなかった。
カルマの声に少しだけ冷静になって、少しだけいい子の私が外に出る。
なんでと聞き返されるも、それには流石に答えられなかった。
「いればいいだろうが、そんな怖がってんのになんでそう強がって…」
『強がってないですから………なんで?なんで私の事離さないの?なんで、初対面のこんな子供相手に告白なんてするの?』
「あ?」
続けられたこの人からの、いつも通りの優しい言葉に更に困惑してしまったから。
『なんで、初対面の…他人同然の私にそんな言葉が出てくるの?貴方はそんな性格の人でもなければそんなに器用な人でもなかったはず。それも恋愛事なんて、それこそ興味もなかったような』
「なんでって……知らねえよ、仕方ねえだろ。俺の本能がお前に対してそう働いちまうんだから」
『私と同じ見た目の人なら良かったんじゃないの?』
「お前と同じ見た目の……?」
目を見据えて言ってから、そこの記憶も抜けているのかと察してなんでもないですと首を振った。
中也さんを助けたという私と瓜二つの女の人、もしもその人が私よりも先にこの人と出逢っていたならば…きっとこうはなってなかった。
身体や本能に従って、私に好きだなんてすぐに言ってくれたのなんて、本当はもう泣き叫びたいくらいに嬉しいこと。
だけどそれじゃあ、また同じになっちゃうから。
『……首領、多分“例の件”…あれ、本当にそうなんだと思います』
「ち、蝶ちゃん?…本当に今日、何があったの?僕には言えそうにないかな」
首領は私の言葉の意味を汲み取ってそう返してくれた。
しかしその優しさが、今は私の胸を貫いてくる。
『…………どうせなら、もういっその事誰かが私を殺してください…』
「!!!……っ、手前…ッまたそんな!!…また?」
反射的に返ってきた中也さんの声に驚きはしたものの、怖がるような余裕ももうなかった。
『あいつに殺されるくらいならその方がいい…首領、だめ?もういっその事、私は中也さんに殺されても文句なんて言えな____』
言い切ろうとした刹那。
乾いた音が、やけにあっさりと私の耳を掠めて通っていった。
『___っ?…??』
なんだったっけ、この感覚。