第14章 わからない人
「諦めろって言う割にはなかなか離れてくれねえんだなお前は?」
中也さんの言葉に肩をビクつかせる。
しかし次第に私の中で、様々な恐怖が押し寄せてきた。
私を狙うあいつがまだ生きていたこと、私の弱点だと言いながら与えられたつい先程の信じられないような…身体中を駆け巡った電流のような刺激。
最早痛いのかなんなのかさえ分からなかった。
ただ、本能的に分かることが一つだけある。
『………… そっか、それで死ぬんだ、私』
「は…っ?」
『…なんでも。………ごめんなさいくっついたりなんかして。ちょっと取り乱してただけなんです…もう大丈夫です』
中也さんにだけ聴こえてしまったのだろうか。
まあいい、どうせ細かくは何のことかよく分かってなんていないだろうし。
確信出来たのはそういうこと。
中也さんは記憶が抜けて以前のように私とは過ごせなくなる。
だから、私の元に駆けつけられない日がきっとある…いいところだ、弱いところだと解釈していた私のここは、本当にただの弱点となる場所なのだろう。
じゃないとあんなの、人間の体の構造であれば普通、おかしな話だから。
それがきっと、180という数値の理由なのだ。
そういう事だったのだ。
あいつが来る…今度はただ、私を殺すために来る。
中也さんの記憶が戻ったところで、そんなことをすればまたこの人がどんな目に遭わされるか分からない。
そこが一番怖い。
ううん、違う、それより何より一番怖いのは、中也さんの事じゃない。
私がこの人に会えなくなるのが怖いんだ。
私が、この人と一緒にいられなくなるのが怖いんだ。
自分の意思でここまで素直に思えた初めての事が、こんなものだなんて…なんて嫌な奴なんだろう。
離れたくない、離したくない…離れないでほしい、離さないでほしい。
離そうと腕を動かそうとするものの、上手く力が入れられなくて動かせない。
なんでこういう時に“いい子”になれないんだ私は、とっとと離れてしまえばいいものを。
そうしてこの人を巻き込まずに、どこかで野垂れ死にでもしてしまえばいいものを。
あと約半年間、この人の前から消えて忘れられてしまえばいいだけのものを。
『…っ、やだ…ぁっ……死にたくない……ッ』
「!!!」
「お前…さっきから何言って……!と、とりあえず落ち着け!?俺はいるから、な!?」