第14章 わからない人
「!!?こ、これは…っ!!!ッ!?…グ、っ…あ、っ!!」
酷い頭痛に苛まれたような中也さんの声。
ああ、こうなるから避けたかった。
こうなる可能性があったから、やめておきたかった。
だけど中也さんに何者なのかなんて…誰なのかなんて聞かれて、平気で無視できるわけが無い。
『………ほら、首領。やっぱり言わな「言え…ッ」!?中也さ…っ、顔色が悪いのにそんな事…!!』
「いいから…心配すんな、お前を見捨てはしねえし、何言われても怒らねえよ……どうやら俺は、お前の事を怒ろうとすれば心が痛んじまうタチらしい」
頭を押さえながらも平気な顔を装って言う中也さんに泣きそうになった。
自分が怖かった事なんて忘れてしまった。
今はただただ、目の前の人が中也さんなんだとやっぱり私が覚えてて…中也さんの身体や本能が私を覚えている事に何も言えなくなった。
片手で私を撫で続ける中也さんに、首領が仕方が無いと声を出す。
「中原君、見てもやはり思い出すまでには至らなかったのだろう…言うだけ言いはするし教えるが、それでも自分の事を責めたりしないと約束してくれ。じゃないとこの子も言わせてくれないだろうから」
「……約束します」
「よし。………君の撫でているその子はとても綺麗な子だろう?凄く優しくて健気で、この世界の誰よりも君の事が大好きで…君が大好きな女の子だ。女の子…うん、“女性”と言った方が正しいか」
そこまで聞いただけでも、中也さんは更に目を見開いて、その意味を解釈していた。
信じられないといったような…はたまた本当にそうなのかとどこかで感じていたことのあるような、そんな表情。
首領に向けていた顔をすぐさま私の方に向け、両手を私の頬にあてて優しくそのまま顔を上に上げさせる。
「………………蝶…白石 蝶。お前が死んでも、忘れねぇ…」
『!!!…っ、へ……?ちゅ、うやさ…ッ、なんでそれ…っ』
「!?……わ、悪い無意識だった…俺何言って……!!!蝶!?そうか、蝶って……お前が蝶か!!!」
『ぁ………ッ…ん……そう、だよ。…私が、蝶だよ……中也さん…』
小さな頃に約束した…なんて大層なものでもない、ただの中也さんの言葉。
私を安心させるためだけに言ったその言葉。
「………苗字は白石で、合ってるな」
『…はい……』
「…澪も、お前の名前だな」
『!!……はい…っ』