第14章 わからない人
貫き通して…貫き通そうとして、死にかけた人がいた。
自分の信念を貫き通して死んだ人だっていた。
怒りを抑え込むように大きく呼吸をしながら睨みつけると、大層面白いものを見たといったようにクックッと喉を鳴らして笑い始める。
「白石さん…君の弱点は把握している」
『?何を言って………ッきゃぅっ…!!?』
突如、首に回されたシロさんの手。
項を数回撫でてから、そのままその手が前に回ってきて、私の首筋を痛いくらいに力を入れてなぞり始めた。
『ああ、ぁ…ッ、何これ……っ、何これぇ…ッッ!!!』
強過ぎる快感を通り越して、身体がガクガクと痙攣し始めた。
流石に私の様子がおかしいと見たのか、真っ先にカルマがシロさんの手を強く掴んで私から離す。
「…うちの蝶に何してくれちゃってんの?」
すぐにカルマの胸に抱き寄せられ、震える腕でそこにしがみついてなんとか意識を保つ。
『な、にさっきの…っ、知らない……ッ、知ら、ない…!!』
「うちの……ほう?てっきり交際するのであれば中原中也とかと思っていたが…どうした?まさか振られでもしたかい?」
『!!!……や、めて……っ』
「それとも遂に君も見捨てられてしまったかな?…そこのモンスターの次に憎いあの男………今日は一先ず退散するが覚えておくんだ。君の“解析”はもう済んだ…中原中也に見捨てられてしまえば、君などもう怖くはないんだよ。分かるかい?中原中也にも捨てられた、哀れなただの化物が」
肩が大きく跳ねた。
気が付いた、相手が誰であるのか。
自身に襲い来る恐怖に身体中の震えが治まらない。
私にだけそう伝えて、シロさん……シロはそこから去っていった。
「蝶、さっき何言われたの!?振られたとか見捨てられたとかじゃないなんて蝶が一番ちゃんと分かってるでしょう!!?」
『や、だぁ……ッ、やだっ、やだ…!!』
小さく声を漏らして必死になる。
薄々そんな可能性はどこかで考えてた。
だけど、本当にタイミングが悪すぎる。
「ちょっ……、蝶!!?聴こえてる!!?」
両耳を手で塞いで、もう何も聴きたくないと……もう、何も見たくないと。
もう、何も思い出したくないと。
頭の中が真っ白に……否、真っ暗になった。
目的やしなければならない事なんてどこかに行ってしまって、私が生きる意味さえ分からなくなって。