第14章 わからない人
最悪のタイミングだ、今の私はポートマフィアの構成員なのだから、やましいことは全てこの組織での仕事の方…つまり、それ以外の連絡をここで取ることができない事の方が、この組織では通常おかしな事。
少し躊躇ってから意を決して電話を取ると、電話の先からは物凄い轟音が鳴り響いていた。
中也さんは特に会話の内容を深く聞く気も無いのだろうか、首領や紅葉さんと話をしている。
それはありがたい、ありがたいのだけれど、流石に状況が飲み込めない。
「も、もしもし蝶ちゃん!?繋がってる!?」
聞こえた声にまずいと思って中也さんをチラリと見るも、そこまで聞こえてはいないよう。
『聞こえてるよ!何、どうしたの!』
私の声が向こうには聞き取りづらかったらしく、少し大きな声を出すことに。
下手な内容じゃありませんように、と祈りつつも返事を待っていれば、またもや予想外の事態に直面した。
「今、偽の下着泥棒捕まえようとしてたらね!?それ、殺せんせーをおびき寄せるためのシロの罠で!!イトナ君がまた殺せんせーに勝負を仕掛けてきたんだけど、私達も結構状況的に……ッきゃあ!!?」
『!?カエデちゃん!!?』
「!……カエデ…?」
凄まじい轟音と共に鈍い音が響いて、電話が途切れてしまった。
…何が起こってる?
シロさんがいるってだけでも嫌な予感しかしない。
けれど、イトナ君まで来てるだなんて…彼も私から見てみれば、シロさんにいい駒にされている被害者だ。
今すぐなんとかすれば、もしかしたら助けられるかもしれない。
けど、そしたら中也さんを襲った相手を捕まえるのを中断することに……?
『……ッ!!!』
「「「な…っ!!?」」」
ろくでもないことを考えた自分の頬を、両手で思いっきりひっぱたいた。
何考えてんの私、中也さんの相手ならもう顔が分かってるんだから、いつだって相手が出来るじゃない。
今この時危ない状況の友達を…助けを求めてくれたカエデちゃんを見捨てるだなんて選択肢、出した自分が情けない。
腹が立って仕方がない。
脚にグッと力を入れて立ち上がり、首領の方に顔を向ける。
「れ、澪ちゃん!?いったい何を…」
『首領……ッ、ごめんなさい、私今行かないと…っ』
「!!行っておいで、お友達の危機なんだろう!」
『ごめんなさい…っ!!』
頭を大きく下げてから、急いで退室した。