第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
悪い事をしている気分、と言いはしたが、俺は今目の前の生徒に対して、誠実でない行動をとった。
森さんからの話であった、無茶をするからとめてくれというのはこの事だったのか、と納得すると共に、本当に実行するだけの覚悟と力を持ってしまっている白石さんを見て、珍しく焦ってしまった。
この子は本当に純粋だ。
ただただ純粋で、人を疑う事は知っていても、自分の信じた人を疑う事はしないような。
純粋故に、危険だった。
殺し屋だった、暗殺部隊に所属していた、それだけ聞けば、何故そんなことが出来るんだと言いたくなるのが普通かもしれない。
しかし俺は、寧ろそのような環境で育ってきたからこそ、命の重みを本当の意味で理解しているのだとも思った。
だからこそ、自分の心の許す人間を見捨てられない。
助ける力を持っているから。
本人の言う、人体実験に耐えてきた体で、助けても耐えきるだけの経験と自身があるから。
有事の際に実行するだけの覚悟をもっているから。
やろうと思えば出来てしまうのだ。
白石さん個人の持つその優しさと、実行力が彼女を危うくする。
ここまで言っても引き下がらないのは、彼女の素晴らしい面であり、危険な面である。
森さんから頼まれたというのも勿論あるが、自分個人としても、この優しい少女に、そんな悲しい選択をして生きていて欲しくはない。
だから俺はこの少女に納得させるため、咄嗟に嘘をついた。
中原中也…横浜 ポートマフィア随一の体術使いである、ポートマフィア五大幹部の一人。
政府の情報網で調べれば、すぐに情報は出てきた。
そして、そんな彼が白石さんに再会するのには、以前学校に来ていた太宰治という名の探偵社員の働きが大きかったというのも森さんから少し聞いたことがあった。
たったそれだけの情報でも、彼女を説得するのには十分なものだった。
理由は、ここでもやはり、彼女が純粋で優しく、危ういからだ。
中原さんから聞いた、頼まれたと言いはしたが、俺は彼とこの話をした事は一度もない。
俺は白石さんの、純粋に中原中也という一人の男性を想う心を利用したのだ。
「話が逸れてしまったな。白石さん、君の話の本題は、恐らく別のところだな?続けてくれ」
彼女の為と自分の心に言い聞かせ、罪悪感に苛まれつつも無理矢理話を切り替えた。