第14章 わからない人
『うん、本当にごめん。暫くこういう状態続きそうだからあんまり色々と行けなくなっちゃうけど……困った時は絶対来るから』
「う、うん?でも本当、何か手伝えることあったら言うてね?中原さんの身体の具合も心配やし…」
ピク、と耳を反応させて、少し急いで教室の入口まで荷物を持って移動した。
『中也さんはもう大丈夫だよ。怪我も探偵社の専属医さんの異能で完治してるし、いくらでもまた前みたいに暴れられる状態だから』
首領の話をそのまま言っただけだった。
私の名前を出した時にあの人は私を忘れていた…だから、与謝野先生ならなんとかなるのではないかと一度だけ試してみたらしい。
しかし、それでも記憶だけはどうにもならなかった。
何ともならなかったのだ。
私がやってもいいのだろうけれど、自分以外の人の脳はどこに記憶がちゃんとあるのかいまいち把握しにくい上、かなり扱うのが難しい。
それにきっと、私以外の人間が無理矢理私の能力で失った記憶を一気に見せられれば……恐らくあまりの情報量の多さに、処理しきれなくなって発狂してしまう。
頭を狙われるのは本当に厄介なもの。
私自身に移し替えても、私がその状態に陥ってしまえば元も子もなくなってしまうのだから。
「そっか、それなら安心……蝶ちゃん…?」
『!う、うん!大丈夫……じゃあ、私はこれで帰るけど皆気をつけてね?何かあったら絶対誰か私に連絡頂戴』
「俺が入れるから、そっちは気にせず中也さんのとこに行ってきなよ…………今日から動くんでしょ」
カルマの声にそうだね、と頷いてから行ってくると微笑み返す。
「ん、行ってらっしゃい」
「か、カルマ…?白石も……本当に何かあったか?」
『大した事じゃないよ、私がちょっと忙しくなってるだけだから。じゃあまたね!』
皆からの挨拶の返事を聞いて、すぐさま職員室に移動する。
ここなら殺せんせーの目が行き届いていてどこからも情報が漏れる心配もない。
扉を大きく作らずとも移動が出来ることを発見したため、もう電車を使う必要も無い。
すぐに立原の執務室まで移動して、白石澪を作り上げる。
「蝶ちゃんがこっちの事に来ないのって初めてじゃない…?」
「何気に心配症だから何するにしてもついてきてたし…あれ、本当に何も無かったのかな?」
クラスの皆が疑問を抱いていた事にすら気付けずに。