第13章 愛ゆえに
「無理にとは言わねえが…俺一人だし構わねえよ。ただの餓鬼ならまだしも、なんつうかお前見てっと俺が見てなくちゃならねえような気分になんだよな」
『…私が、中原さんの家に……?ってなんですかそれ…』
「ははっ、分かんねえ。なんか知らねえけど、やっぱりただの餓鬼に見えねえんだよなお前」
餓鬼じゃないもん。
大人だもん。
いつもの返しをグッと堪えて、そして自身の内に溢れ出る欲を抑え込んで、初対面ならこうするであろうという勝手な対応を考えて実行する。
『…でも幹部にご迷惑をおかけするのはやはりいけませんし、大丈夫です。ありがとうございます』
「ああ、気にすんな気にすんな!俺の思い付きだっただけだから…にしても本当よく人間できた奴だなお前?あとやっぱり髪に違和感がある」
『私なんて根っからの人でなしですよ、マフィア脳ですから。………首元触らないんならどうぞ?』
クルリと再び背を向けて大人しくすれば、じゃあ遠慮なくと中也さんが再び髪に触れる。
それをまたひと束にまとめてからそれを上に上にとまとめたまま上げていく。
ああ、なんでだ…なんでこの人はこうなんだ。
「ポニー…は違ぇな、似合うけど。………!横か!!」
サイドに持っていかれた長い髪。
いつもとは反対側に上げられたままこっちを向いてみろと言われたので素直にそれに従えば、再び首を傾げられた。
「……ああ、こっち向けたら反転すっからか!こっちだこっち…お前ゴム持ってるか?」
ポケットの中に入れてあったゴムを中也さんに渡せば、そのまま手際良く髪の毛をいつもの位置でくくられた。
なんで分かるのかな、なんて考えていれば満足そうな…嬉しそうな顔をして、無邪気そうに笑う中也さん。
「おお、違和感ねえよこれ!!似合ってるどころか自然だな…俺サイドアップの黒髪ロングが好みなんだよ」
『……プッ、なんですかそれ!すっごい限定的…しかもまた口説いてますって』
「口説いて…!!すまん…いやお前綺麗だからつい…ってあああ中学生相手に何ほざいてんだ俺、大概にしろよ」
『ふふっ、明日からお仕事楽しそうだなぁ』
「あああ忘れろこういうのは!!柄じゃねえ上になんかかっこ悪ぃ…」
もう何も返せなかった。
そんなことない、私に綺麗って言う時の中也さん、すごく大人っぽくてかっこいいの。
…ドキドキしたなんて、言えなかった