第13章 愛ゆえに
中也さんとの話はスムーズに進んでいく。
遠回しに中也さんの事を話しているのだけれど、やはり本人に身に覚えはないのだろう。
『私は拾われた身の人間ですしね。元々両親なんてものもいませんし…大事に育ててくれた人は自分のせいで大怪我させちゃいましたから』
「………それで離れて生活しようとしてるってわけか」
『!…まあ元々一人だったようなものですし。それに友達の家にお世話になろうとしてますから』
「友達?それなら安心か…十四にしてなんつうか、苦労してんなお前も。俺なんかお前くらいの歳の頃は…………ああ、ダメだな。ろくな事してた思い出がねえ上に分からねえ記憶が多すぎるわ」
多分それは私のせい。
だからこれ以上は、ここから話を広めない方がいいような気がした。
『…そういえば、中原さんもワインがお好きなんですね?やっぱり誰かとよく飲みに行かれるんですか?』
「あ?…あー……飲みに行きもしてたが…今これ見てたのは気休めみてぇなもんだな。情けねえことに俺も今記憶が一部飛んじまってるみてえで…すげぇ大事な奴だった気がするんだが、どうしてもそいつの事だけは思い出せねえんだよ」
どこか遠くを見るような中也さんの瞳に、全てをさらけ出したくなった。
そして喉まで出かかった言葉を全て飲み込んで、中也さんから目を少し逸らす。
『…中原さんも記憶が、ですか……忘れてる方は何人くらいなんです?』
「首領やいろんな奴に確認してみたが、どうも一人だけらしい。チヨって名前の交際していた女だそうだ…が、まあ俺の様子を見に来ねえあたり愛想つかされて振られたのかもな」
自分の事を忘れるだなんて、なんつって。
軽く言われた言葉に目頭が熱くなってきた。
……そんな事、絶対に無いのにな。
いるよ。私は…蝶はここにいるんだよ。
「まあ忘れちまった話は今考えても仕方ねえし置いておこう、それよりもそんな歳でここに入るっつうお前の方が心配だ」
『そんな、私は全然平気ですよ?お気遣いありがとうございます』
ヘラリと笑うも平気なはずねえだろ、子供は子供らしく大人に甘えときゃいいんだよ、と笑われる。
素でこうなのか、この人は。
餓鬼は嫌いなんじゃなかったっけ…怪我のショックでなんかおかしくなっちゃった?
「友人の家ってのもこんな仕事じゃ気も使うだろうし……なんなら家に来るか?」
『へ……っ?』
