• テキストサイズ

Replay

第13章 愛ゆえに


蝶に指示されるがまま、半ば小さい子を寝かしつけるようにわがままを聞いている気分になりながらも本人の一番安心出来る寝かし方をしたからか、少しすればすぐに蝶は眠りについた。

あーあ、俺の気も知らないでやってくれるよホント。
ずるいでしょ、今度は向こうから名前で呼んでとか…寝る時は腕枕で抱きしめて撫でながらがいいとか。

まさか中也さんて毎日こんな風に寝かせてるわけ?
いや有り得るなあの人なら、やってる可能性しかない。

これこそ本人に知れたら俺の命も時間の問題だ…

寝息を立ててようやく柔らかい表情になった蝶を、寝てしまったのに未だに何故か撫でることをやめられない。
…これはまあ、こうしたくもなるわ。
俺が中也さんでもお願いされたらずっとこうしてたくなるよこれは。

自分に苦笑しつつもようやく甘えてくれた彼女を見つめていれば、控えめな音を立てて保健室の戸が開かれる。
何人もの足音が聞こえるのを考えると、多分教室から皆気になってやっと顔を出したんだろう。

「カル……!!?か、カルマ!?てめえ何して!!」

「シーッ、今やっと寝てくれたとこなんだから大きい声出さないの」

「!す、すまん…じゃなくてなんだよその状況!?」

声のボリュームを落とした寺坂に続いて皆こっちに入ってきた。

「まあ成り行きで…多分中也さんといる時はこうやって寝てるんじゃないかな。やけに細かく指示されたから……っと…?」

蝶の頭から腕をどかそうとすれば、小さく唸るような声を上げてもぞもぞし始める蝶。
嘘でしょ、これはちょっと無防備すぎるんじゃないの。

「……こんな具合で、話の途中で中也さん症候群的なスイッチ入っちゃって…甘えたモードに入ってる」

「「「か、カルマすげぇ…」」」

「いやいや、凄いのは中也さんだって。俺あの人に常々蝶のマニュアル叩き込まれてっから」

「「「なんだそれ聞きたくなかった」」」

薄々予想はしてたけど、といったような皆の表情も、やはりどこかうかないものだ。

この蝶ちゃんがあそこまで取り乱しているのでさえもが普通は無かったこと。
しかし、恐らく皆が一番驚いているのはそっちではない。

「………あんな泣くもんなんだな、白石も」

「そりゃ純情乙女だからな…でも意外だ」

素直な気持ちをぶつけて泣きじゃくっていたあの声は、このボロ校舎じゃ響き渡ってしまうから。
/ 2703ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp