第13章 愛ゆえに
時はほんの数十分前まで遡る。
可愛い恋人の微笑ましい願いをなんとかすぐに叶えてやりたくて、そいつの熱をもらい受けた。
しかしそこで違和感に気が付いて、早急に蝶との通話を切って椅子に座って頭を押さえる。
これが…熱か?
これが、風邪か?
じゃあ何なんだこの身体中を襲う、異常な程の倦怠感は?
何なんだ、頭を支配してしまうようにさえ感じてしまう、この異様な意識の薄れようは。
とにもかくにも、普通の風邪では無いということだけは確かだった。
絶対ぇ何か盛られてんだろこれ、あいつはこんなもんに耐えて平気な顔して過ごしてたってのか。
とりあえず気を紛らわせようと弁当一式を持ち出して、主に普段梶井や広津さんなんかと集まって昼食をとる食堂の一角に座る。
既に梶井はやって来ていて、また今日も白石さんの話ですか、と笑われるものかと思っていた。
「…中原幹部?どうされたのです、そんなに苦しそうにして…具合が悪いのなら早く帰宅された方がいいのでは」
「ああ……まあ平気さ、風邪だ風邪。放っときゃ治る」
「出ましたね精神論…でも流石に顔色が悪過ぎるように見受けられる」
弁当箱を開けてみれば、本当に久しぶりの蝶の弁当だった。
俺の日頃の味付けをこっそり研究して、日に日に俺の作る味どころかそれよりも更に俺好みの味付けになっていく蝶の弁当。
何気に…どころか俺の仕事の楽しみは主にこれがメインなのだ。
「うお、今日もすげえもん作ってるわあいつ…こいつがありゃあ俺多分死にかけてても生きていける」
「縁起でもない事やめて下さいよ、白石さんなきますよ?」
「だろうな、あいつ泣き虫だから。…まあ冗談抜きでそんくれえは思ってるさ。特に今日なんかはケーキに力入れたらしくてな?いつもより少しだけ豪華なんだと」
恐らく数日間、まともに家事もさせてやらなかったからだろう。
あいつが俺の事をどれだけ好いているのかは、今や他の誰もが計り知れず、俺だけが知っているようなもの。
何かあったらこういう形で帰ってくるもんだから、可愛らしくて仕方がねえ。
先に見てみようかと思ってデザート用の容器を開けてみれば、そこには驚く程丁寧に装飾されたシフォンケーキと、俺が好きな蝶の手作りのチョコレートケーキが入っていた。
「まさか二種類入ってるとは…やってくれるなああいつ、本当適わねぇ」
