第13章 愛ゆえに
「蝶ッ!!?」
勢いよく扉が開かれて、リビングに中也さんの声が響き渡る。
『んぐっ!、?……ッホ、ケホッ』
突然のことに驚いて飲みかけていた紅茶を一気に飲み込んでしまい、気管に触れたのか咳き込んだ。
「何して…ってああ、ほら落ち着け落ち着け、深呼吸しろ深呼吸」
背中をさすりながら包まれる感覚に満たされる。
しかしそれと同時に嫌なことも考えつく。
なんて夢見の悪い日だ、あんな話があった日に限ってこんな夢を見るなんて。
咳が止まった頃になると撫でるような動きに変わって、落ち着いたかと言われてコクリと頷いた。
「悪い、驚かせて…んで、こんな夜中にどうしたんだよ」
『……目覚めちゃって』
「俺んとこから抜け出してよ」
『!…ふふっ、ごめんなさい。ちょっと間したら戻るつもりだったんだけど』
紅茶にでも妬いているのだろうか、この人は。
そうともとれるような目でカップを見てから、中也さんは私の向かいに腰掛けた。
「んで?なんで紅茶なんかわざわざ淹れて飲んでんだよ?」
『ちょっと口の中が寂しくなっちゃって』
「ほう…口の中が物足りねえけど俺より紅茶の方が良かったか」
『中也さんよりって……ッ!!?』
少し考えてどういう事なのかを察して、顔を一気に熱くした。
馬鹿だこの人、なんでそういうところにまで。
『ほ、ほほほら起こしちゃいけなかったし夜中だったし!!』
「…なんで起きた?」
『なんでって…』
核心に迫るような中也さんの目に見据えられ、この人との約束を思い出す。
なんでも話す、こういうことで隠し事をしない。
嘘ついたり、変に取り繕ったりしない。
『………ギューってしたい』
「…どうぞ?」
その場で腕を広げる中也さんの方に歩いていって、控えめにギュウ、と抱きしめた。
椅子に座ってくれてるから、いつもより中也さんを近くに感じる。
ここが、好き…この人のところが大好き。
『変な夢見ちゃっただけなの。タイミングもタイミングだったからそれで…それで、こうしてたくなって…』
「…不安か?やっぱ」
『ちょっとだけ…ちょっとだけだから』
「いいよ、すげえ不安って言ってくれて。ちょっととか言うなって、俺もっとお前に甘えられてえし」
ニヤリと笑った中也さんに、お返しと言わんばかりに腕に思いっきり力を入れた。
「ギ、ギブだ…」