第13章 愛ゆえに
「ていうか中原君から鉄拳が飛んでこない方が怖いんだけど…何、後からまとめて報復される感じなの今回!?逆に怖い!!」
『…中也さんが突っ込まないんなら、蝶はトウェインさんのところに行っちゃおうかな』
「!ああ…ってああ!?何ふざけた事抜かして………一日くらい泊まりにでも行ってみるか?」
「『は…?』」
中也さんからのまさかのOKに、私までもが間抜けな声を出してしまった。
途中まではいつもみたいに勢いがあったのに、それがどうしてか百八十度真逆の意見に変えられる。
…少し考えればどうしてかだなんてすぐに分かった。
『そんな事言って…何です?遂に箱入り娘を旅立たせる気にでもなったんですか』
「箱入り娘ってお前な…まあ一回くらいいいんじゃねえの?お前が行きてえならそうして『中也さん、そういうのダメだって私にはいつも言ってるでしょ』……悪い、らしくなかったな」
「え、っと…?なになに、喧嘩でもした後なの君達?」
『間違いではないかも』
実際昨日は大喧嘩したばっかりだし…おかげさまで今こんな風に中也さんが思いつめてしまっているわけなのだけれど、それでも意見をぶつけられたのは良かったなと思ってる。
この人に面と向かって意見を言えたから。
自分の意志で、中也さんにもちゃんと伝える事が出来るようになったんだって分かったから。
「おい、仲直りしたんじゃなかったのかよ」
『しょげてる中也さん気持ち悪いから嫌。そんな事してる暇があったら私のこともっと甘やかして』
「待って君達喧嘩したの!?めっずらし!!」
「え、喧嘩なんてしてたの!?珍しいこともあるものねぇ!」
奥さんにまで驚かれた。
まあ、確かに珍しいことだとは自分でも思うけど…だけどいいじゃない、たまにはそんな日があったって。
ちゃんと人間やってる証拠だよ。
「分かった分かった、帰ったら好きなだけくっついてていいから」
中也さんの発言にジロリと目を向けると、なんだよ、と中也さんが少し警戒したように言う。
『帰ったら…?へえ、帰ったらなんだ?帰らなくちゃ中也さんって私の事あまやかしてくれな「よっしゃこい、いつでもこい、今すぐにでもこい」そういうとこ大好き♪』
満面の笑顔で向かい側の席に移動して、中也さんに思いっきり抱きついた。
「…俺も」
回された腕も、回した腕も、いつもよりも強かった。