第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
俺に抱き着いてきたかと思えば、満足したのかすぐに寝付いちまった蝶。
結局昨日と同じく腕枕状態になっているのだが、もうこの際それは気にしないでおこう。
「……それにしても、本っ当に大丈夫かこいつ、俺がいねぇとこでこんな顔して寝ててでもみろ、すぐ誰かに襲われんぞ」
自分の腕の中ですよすよと気持ちよさげに寝ている少女に悪態をつく。
まあ、これは所謂照れ隠しというものなのだが。
蝶には先程、さらりと言えるように綺麗なのだからとは言ったものの、綺麗云々は一見しただけの奴にしか分からないものだ。
真にこいつを知る奴らなら、色々な面を見てすぐに気が付くことだろう。
蝶は可愛いのだ。
可愛くて可愛くて仕方がない。
これはまるで自分の子供を愛でる親のような愛情のように捉えられるかもしれないが、俺の場合はそうじゃない。
寧ろ、親の様に思っているのは首領や広津さん、あと太宰に聞いた話によれば探偵社の社長と何人かの社員だ。
口が裂けても誰かの前で可愛いだなんて、俺の性格上言えないが、この蝶の可愛さが俺にとっての最大の褒美であり、それと同時に最大の敵となるのだ。
「意識すると更にやべえな、危ねえ」
変態か俺は。
いや、男たるものこれは仕方のない反応だ…と信じたい。
それにしても、気に食わねえが、本当に太宰の野郎には感謝しなきゃいけねえらしい。
勿論こうして蝶と今いれるのも、癪だがあいつのおかげなのであって。
「しかもメンタルケアまであいつ頼みだったとは…」
蝶の頭を撫でてやると、気持ちよさそうにしながら俺の体に回す腕に少し力をいれる。
それにしても心の底から気に食わねえ。
太宰自身にもだが、先程の己の情けない嫉妬心に対してだ。
ヤケになって、蝶に思い出させなくていいことまで思い出させた。
こいつの心の傷はまだまだ癒えてねえってのに…
「……でもやっぱ、俺以外の野郎にこんなの見せたくねえなぁ」
いっその事、何にも考えずに、蝶に向かっていけたらいいのだが。
もどかしくて危うい今の距離感を保つのはなかなかに難しい。
ちょっとした事で理性は持っていかれるわ、嫉妬して大人気なく強くあたっちまうわで、全然俺に余裕なんかないんだ。
どうせなら、蝶に好きな奴でも出来てしまえば楽になれるのだろうか。
「でもそれうなっちまうのは……嫌だなあ」