第13章 愛ゆえに
その場で傷を治していってしまった…それを聞いて、冷や汗が流れる。
『どういう、事?治癒系の異能だとしてもそんな事……どんな風に、治ったの…?』
「だいぶ前の事だからんなはっきりとは覚えてねえが…手を傷にかざされて、何かその女が呟いて…そしたらそこが薄ら光ってよ。気づいた頃には治ってた」
何かを呟いたら手をかざしたところが光っていた。
それだけでも十分すぎる情報だ…だけどいったい、どういう事?
そんな事を出来る人間が…“あれ”を使える人間が……?
「蝶、お前に姉妹なんかいねえよな?…いたとしても元の世界にいるよな?」
『!い、いないよ?私一人っ子で……ね、ぇ中也さん』
私が中也さんの手を取ると、どうしたと聞き返される。
『ほんの、ほんのちょっとでいいから…ちっちゃい傷、作ってみて……ください』
なんてお願いだ、こんな頼みがあるか普通。
中也さんを傷つけるだなんて、そんな事は出来ない…だけどどうしても確かめたい。
中也さんは何も聞かずに懐からナイフを取り出した。
「…見んな、目瞑ってろ」
『ごめん…ごめんね…』
「いいから」
言われた通りに目をキュ、と瞑って、中也さんに終わったと声をかけられてそこを見る。
ちょっとでいいって言ったのに、結構大きくやってるじゃない…
見るのも心苦しい大きな切り傷に手をかざし、意識を集中させる。
この世界にはごく微量にしか大気中に存在しないある物質を自身の周りに無理矢理集め、それらのエネルギーを掌に集める。
何かを呟いた…中也さんはそう言っていたけれど、私くらいならば魔法などというものにおける呪文というものを詠唱せずともこの術を扱える。
何よりも今のように集中出来る環境で、時間も気にせずいられるのなら、言葉を使って効果を安定させなくても大丈夫だから。
「…!?……ち、蝶…っ?お前、これいったいどこで…!!?」
どうやらこれで正解だったらしい。
光が見えた、手をかざされた部分が治されていた。
私の知っている治癒術の中でもそれに該当するものをいくつか絞込み、尚且つこの世界の環境下でも扱える術はこれ以外に存在しない。
エネルギー源となる物質が少なすぎるこの世界においてなんとか発動させることの出来るものはこれしか無いと判断したからだ。
掌に集めた光がゆっくりと消えたころには、中也さんの傷は綺麗に治っていた。