第13章 愛ゆえに
「ああもう、そういうんじゃなくて…」
『?ありがとうじゃないの?花火でサプライズされるなんていつぶりだろ…覚えててくれたんでしょう?私が言ってたの』
「それはそうだが………俺は花火に向かって言った覚えはねえぞ」
花火に向かって言った覚えはない
その言葉にどういう事だと、中也さんの方に顔を寄せる。
花火の灯りでしかよく見えない中也さんの表情…心なしかまた眉間にしわが寄っている。
『…どうしたの』
「……お前に綺麗だっつったんだよ」
気付け、阿呆
言われた言葉に目を丸くした。
後頭部と背中に腕が回されて、ポフ、と中也さんの胸に抱きしめられる。
綺麗という言葉がこの人の中でどれ程のものなのかを少しだけ理解するようになってから、こう言われることに変に意識してしまうようになった。
あれだけ言われていたのに気付けなかった、それのもつ特別な意味。
何においても、中也さんが…中也さん自身の本能が感動するものを綺麗だとこの人は言う。
可愛いとはまた違って、ちょっぴり大人に聞こえる褒め言葉。
『私…?花火、綺麗だよ……?』
「それ見てるお前の方がよっぽど綺麗だ」
『…照れちゃうなあ、そんな事言われちゃうと…な、なんて返したら良いのか分からなくなっちゃう』
率直な気持ちだった。
恥ずかしいし、大好きな人にそんなふうに言われて、照れない女の子がいるだろうか。
生きてきた年月が長いだけであって、ちゃんと人と過ごしてきた時間も人を好きになった時間も、私は人よりずっとずっと短いから。
仲直りと一緒。
どうすればいいのか分からないし、どんな顔をすればいいのかも分からない。
「ん?もうキスしてって言わねえの?」
『い、まは花火あるから…っ』
「それもそうだな…にしても本当、クオリティ高ぇなこの花火。職人に任せた分もあるが、中々やるじゃねえか梶井の奴」
梶井さんもどうやら相当協力してくれたらしい。
面識もない私のために何故なのかとも思ったのだけれど、本人の趣向に沿った内容だったそうだ。
『…家族と見たのなんて、初めて』
「家族?……ってああ、俺か」
『!!ご、ごめんなさい中也さ「いいよ、どうせ近い将来本物の家族になんだから」…本物……?』
「あ?するんじゃねえのかよ、結婚詐欺か?」
少し間を置いて、首を横に小さく振った。