第13章 愛ゆえに
中也さんの襟元を両手で掴んで見上げると、中也さんは平気だといった様子で真剣な目を首領に向けていた。
「な、中原君…?……ならばこの子を人質にするとでも言えば、君はどう動く?」
『ひ、とじち…ッ、?』
ビクリと声を震わせれば、さっきまであんなに怒っていた中也さんの手が、大丈夫だというように私の肩を抱き寄せる。
「探偵社に異能特務課…それに組合と世界各国の有能な暗殺者を募って、ポートマフィアと全面戦争でもしましょうか」
「ほう?そんな事が可能だと?」
「俺だけならともかく、こいつには人望や人徳がありますから…それに、うちの弱みは幹部の俺がよく分かってます」
「!…ははっ、蝶ちゃんを捕まえるのはやめておいた方がよさそうだ。まあ元よりそんな事はほぼ不可能に等しいものなんだけど」
首領の雰囲気が元に戻ったのを感じ取れば、怖がらせちゃって悪かったねと腰を屈めて手を伸ばされた。
頭を撫でられるものだと思いもしたのだけれどまだ拭いきれない恐怖心に目をギュッと瞑る。
「「「___!!?」」」
「な、っ…中原さん!!?首領相手に何を!!?」
しかし予想していた感触は無く、パシ、と小さな音が耳を掠めただけだった。
恐る恐る目を開けると、首領の手を中也さんが取っている。
どうりで周りがおどおどしているわけだ。
「すんません、俺まだ首領から返事をいただけていないもんで…無闇に触らせたくねえんすわ」
「おお、怖い怖い…そうだね、君に抜けられてしまえば大痛手だし……場所を変えて三人でわけを聞くというのも無理そうかい?」
『!…首領が口外しないんなら……』
「……いいのかよ、俺こんだけ啖呵切ったんだが」
困ったように笑う中也さんの方に顔を向けられず、顔を俯かせたままコクリと頷いた。
『一緒に、いてくれるんでしょ…?』
誰に離れていかれても、どんな目で見られても。
軽蔑されたって、見放されたって、中也さんが一緒にいてくれるんなら大丈夫だから。
「おう、当たり前だ。つか今の今まで逃げる側だった癖してなんだよ、結局いてえんじゃねえか」
そうだよ。
いつだって、私は中也さんと一緒にいたいだけなんだから。
『……ッ、うん…っ』
嬉し涙を誤魔化すように目をゴシゴシ擦れば、中也さんの手が頭に触れる。
ああ、やっぱり中也“さん”だ。
こっちの方が合ってるよ。