第13章 愛ゆえに
「何言ってやがる、ハンデはいらねえっつってんだろが」
『そんな事言っちゃって、余裕無いじゃない。顔に出てるって、顔に…わっかりやすいなぁ本当に』
ニコニコしながら、中也さんから繰り出される攻撃を交わして飄々と避け続ける。
手は出さない…手は、出せない。
私は別に、この人を傷付けるのが目的なわけじゃあないのだから。
「マジでいい性格してやがる…そういう所は糞太宰にそっくりだなお前は…!」
『褒め言葉どうも、私太宰さんも尊敬してるし。で?言ってくれればやめてあげてもいいけどどうするの?』
「強がってんじゃねーよ、取りてえんなら取りやがれ。俺が異能使ったら、お前だってどうなるか分かんねえだろ?」
中也さんの声にニヤリとするも、この人にそういう姑息な手はあまり使いたくはないため、まだそれはしない。
しかしどんどん肉弾戦の威力が増してくるとともに、オーディエンスの方が騒がしくなり始めた。
そしてそれと同時に、交易のある人達の声が響き始める。
「これはどういう事なんですか!?明らかに以前のような訓練のレベルでは…!!」
「ちょっ、危な…!!蝶も中原さんも落ち着いてくれよ!?なんで今日はこんな危なっかしいもんを…これじゃあ本物の戦闘みたいじゃ…!?」
響いた立原の声にピタリと同時に止まって、同じタイミングで立原の方に目をやった。
「『ただの本気の鬼ごっこ』」
「「「鬼ごっこで訓練室半壊すんのかよあんたらは!!!?」」」
一斉に上がる声になんだなんだとある人物が訓練室にやって来る。
予想よりも早かったな。
「ちょっ、こらこら中原君も蝶ちゃんも落ち着いて!!何をしているんだ二人共!!?」
「『鬼ごっこです、首領』」
「鬼ごっこに見えないから聞いているんじゃないか!ちなみにどっちが鬼なのこれは!?」
『中也さん』
「よおく分かった、とりあえず中原君は一旦追いかけるのをやめなさい!!」
ピタ、と再び止まる中也さんに、首領も周りもホッと胸をなで下ろす。
鬼が動かないのなら逃げる必要も無い。
少し距離を保ちつつ、首領の方に集中する。
「で、どういう状況だねこれは?何があったの二人共、鬼ごっこに能力は使わないだろうし……やけに中原君が必死すぎる」
「本気にもなりますよ、何せ相手はこいつですから」
『私が家出するかもしれないもんね』