第13章 愛ゆえに
中也さんの執務室を出て訓練室に移動する。
その間言葉を交わすこともなく、そんな様子を気にしてか道行く人達が首を傾げてこちらを見ていた。
訓練室の中に入ると私と中也さんの殺気を感じてか、道を開ける黒服さん達。
それ以外に見知った人達もそこにいて、案の定どういう事だとざわめき始めた。
「時間は決めねえからな…眠たくなったりどうしようもなくなりでもすればどこにでも逃げればいい、すぐに捕まえて連れ戻してやる」
『いいの?そんな条件付けて…私が逃げるの一番得意なの、貴方が一番知ってるわよね?』
「上等だ…俺が世界一お前にしつけぇ男なのもお前が一番知ってんだろ?」
一々やってくれる人だ、だから今まで私はここまで意見をぶつけられなかった。
だけど今回の件に関しては私の一番欲しいものであると共に、中也さんのためだもの。
捕まったりなんてするものですか、私は絶対に自分の寿命の限界値を見つけ出してやるんだから。
『…悪いけど加減しないから。本気で逃げに徹するから私』
「同じく加減はしてやらねえ、本気でお前を捕まえてやる」
バサリと外套を後ろに投げ、帽子まで脱いで手首を慣らす。
それから中也さんは手袋までもを外して私を見据える。
『へえ、随分余裕無いじゃない。流石に私相手なら本気出さなきゃ拙いと思ってるんだ?』
「俺が認めた女だからな。俺が最初からここまで集中する相手なんざお前以外に誰がいるよ…風邪ひいてんのももう知らねえからな。ハンデはやらねえ」
『!…そうね、微熱くらいのハンデがなきゃ、すぐに私に逃げられちゃ……ッ!っぶないなあ、まだ開始してないものだと思ってたのに』
中也さんから拳が振りかざされ、咄嗟にそれを避けた。
地味に異能使ってるしかなり速かったな…今の内に私の重力を操られないように、中也さんの能力を私から別の人に移し替えておこう。
心の中でごめんと謝りつつ、辺りを見渡して目の合った立原にこっそりと移しておいた。
集中している時なら蝶も舞わないようにだって出来るし、中也さんも気付いてない。
余裕そうな表情…に見えもするけれど、私の方が余裕はある。
「本気の勝負にんな合図がいると思うか?隙があったら掴みにかかんだろお前だって」
『そうだね…で?中也さん、怖いんなら正直に言いなよ。言ったらやめてあげてもいいけど?』
__異能力の取り上げを。