第12章 夏の思い出
仕事を進めながら中也に構ってもらったり構いに行ったりを繰り返していれば、中也の執務室の扉からノック音が響き、中也がそれに反応した。
私はその相手に気が付いてしまったため、狸寝入りをしようと布団にもぐる。
私の様子を疑問に思ったのか首を傾げつつも、出てくるわと言って中也は扉を開けに出た。
「…手前か。始末書は終わったんだな?」
「はい……ご迷惑をおかけしました。あれから白石さんの様子は…?」
「気にするような程もう深刻な状態じゃねえよ」
少々冷たい言い方だったかもしれない。
けれども私の体質に疑問を持たせないためには、それくらい曖昧な言い回しをするのが最適だ…私の事、本当によく考えてくれてる。
ああ、それにしてもイライラするなあこの声は。
中也と話してるのを想像するだけでも虫唾が走る。
「そう、ですか。あの、中原さんに少しお話したいことがあって…」
その声にピクリと耳を傾ける。
何やら他には言い難い内容らしく、人に聞かれたくないとの事で執務室の中に入る事に。
まあ私もいるし大丈夫かと思いもしたのだけれど、なんだか今日のソラさんは様子がおかしい。
おかしい…というよりは、恐らくこれが素なのだろう、全く演技をしている様子が見られない。
これは本気で追い詰められているような人の気配だと感じて、狸寝入りをやめてベッドから出る。
「!蝶、お前なんで起き上がって…!!」
「白石さん!?」
『…他の誰かに聞かれたくない話なんでしょう?私席外しますから、終わったら呼んで下さい』
長袖の上着を羽織ってすたすたと歩いていけば、待ってくださいと、何故かソラさんから引き止められた。
それになんですかと足を止めて聞き返すと、本当に切羽詰まったような顔をして、ソラさんは私に口を開く。
「白石さんに言うのはお門違いかとは思います、でも白石さんにも『!ちょっと静かにして下さい』え…っ?……!!?」
間抜けな声を漏らしたソラさんの口を片手で塞いでから、背中の方に手を滑り込ませる。
ピクリと一瞬ビクついたソラさんに構わず服の中をまさぐれば、やはりにらんだとおりの物が見つかった。
それを取り出して中也とソラさんの目の前に出すと、ソラさんまでもが目を見開いて固まった。
やっぱり気付いてなかったんだ。
中也のナイフを手に移動させ、それを思いっきり破壊した。