第12章 夏の思い出
中也お手製の絶品白桃ゼリーを食べ終え、夜になって再び中也の書類の仕事が多く入ってきた頃。
ピピピ、と小さな電子音が鳴り響き、私の体温を知らせてくれる。
『!中也中也、熱下がった!!』
「お!何度だ?」
『三十七度六分!』
「それ下がったって言わねえからまだ大人しくしてろ大人しく!!」
ガバッと勢いよくこちらに振り向いた中也の言葉をよそに、普通に上体を起こして掛け布団をはいだ。
そしてベッドに腰掛けて靴を履こうとすれば、中也がバタバタとこちらに寄ってくる。
「あああ横んなってろって!」
『嫌、中也のとこいる』
「五メートルも離れちゃいねえだろうがこんな距離!?」
『五千ミリ近くも離れてるのよ!?もう私だって我慢の限か「お前それで書類手伝うつもりだろうが!!分かってんだからな!!!」……だって手持ち無沙汰なんだもの』
ほらみろ、ダメだダメだ
中也に抱えられて再びベッドの上に乗せられる。
過保護、超過保護、鬼レベルで過保護。
こんなの微熱の内に入るし。
すっとそこからまたデスクに戻ろうとする中也の背中を思わず見つめる。
手持ち無沙汰だとか書類の手伝いしたいとか、ただの建前なんだもん。
隣でいたいだけ。
「………もう分かった!分かったからそこにいろお前は!!」
『そこにいろって、結局お仕事多いくせ…に……っ?』
フワッとデスクやその上に乗っているものが、そのままの状態で宙に浮く。
椅子も一緒に浮かんで、ベッドの隣へと移動させられた。
予想していなかった中也の動きに目をぱちくりさせ、キョトンと目の前に座った中也に目を向ける。
「お前の体調をまず一番に優先して治してやらなきゃいけねえだろが……寝てろ」
トン、と額を指で突かれ、そのままポフ、と軽い音を立てて体を横にする。
…今変なツボ押したな、この人。
『寝てろって、私今日ずっと横に……ッ』
反論仕掛けたところで、大きな手に頭を撫でられ、何も言えなくなった。
どうしようもなく大好きで、どうしようもなく安心して、反論する意味が無くなった。
「俺の寝てろっていうのは働くなって意味だっつの、お前すぐ俺のすること手伝おうとすっから。要望があればなんなりとキスでもしてやれる距離だぜ?」
『!!…い、いらないっ…』
「お、だいぶ調子戻ってんな」
『何で判断してんのよ…!!』