第12章 夏の思い出
微笑む中也の表情にドキリとして、思わず恥ずかしくなってまた目を逸らした。
とてつもなく色っぽい表情…恐らく世界中で私だけが知っている、中也の“大人な表情”。
「はは、勉強したっつってもやっぱこういうのはまだまだ子供だなお前」
『!!…ごめんなさ…ッ』
「なんで謝んだよ、愛らしいっつってんだ。こういうところの餓鬼っぽさは可愛いもんだぞ」
『……蝶大人だもん』
どの口が言ってやがる、と軽く頭を小突かれた。
痛いわけではないのだけれど、いつもの癖でアタッと声を漏らしてそこを押さえる。
「恋愛初心者が偉そうな口叩いてんなこの餓鬼」
『餓鬼じゃない。中也より大人』
「白石蝶は十四の餓鬼だっつの、餓鬼にもなれねえ奴は大人にはなれねえんです」
『次中也の方が歳下になったら絶対子供って言い返してやる…』
楽しみにしててやるよ、可愛い可愛い俺の蝶さん
してやったり顔で言われて、思わずベシッと中也の手をはたいた。
威嚇するようにキッと睨みつけるも、全く効いていないのだろう。
寧ろ先程までより一層よしよしと撫で付けられ始めた。
それに頬を膨らませて不機嫌オーラを全開にして漂わせる。
しかし撫でられるのは大好きなもので、すぐにふにゃりと頬が緩んできた。
『…これ好きぃ……』
「ちょろすぎだろお前」
『中也さん限定なんですぅ……えへへ…』
「よし蝶、今年の誕生日に何が欲しいか言ってみろ。お前のためなら国までなら用意する」
突然の誕生日という単語に、ぱちくりと目を丸くした。
誕生日…そうか、もう今月だ。
数年間この感覚がなくてなんにも意識してなかった。
『国とか用意しなくていいからね、現地の人達に迷惑でしょ』
「ものの喩えだ…何かあるか?」
喩えとか言ってるけど国が欲しいとか言ったら本気で何国か手土産にして帰ってきそうな気がした。
下手な事は言えない、言ったら誰かやられる可能性がある。
まあ、そんなものを望んでいないなんてことは私も中也も承知済みなのだが。
『えっとね…中也と一緒にプリン食べる♪』
「それいつもしてんだろ…食いもん以外」
『じゃあ中也とデートする』
「するんだよ阿呆、それ前提だろうが。次」
中也の返しに頭を悩ませる。
欲しいものとか思いつかないし。
『…ケーキ?』
「食いもん却下っつってんだろが」