第12章 夏の思い出
「ああ、分かってる。だから食わせてえんだよ」
『し、心配させちゃったならごめんなさい…でもちゃんと食べれる、からその……っ?』
頭に手を置かれ、違う違うと笑われた。
くしゃりと笑った中也の笑顔にドキドキして目を見開く。
「俺がお前に食わせる楽しみ、今回全然無かったからな。俺がいい思いしたっていいだろ」
『何それ?』
「お前に食わせんのが好きだっつってんだ」
『…いかにも鬼の中也の考えそうな事ね』
レンゲに梅を乗せ、ふ、と笑って私を見る中也。
この人の表情一つ一つにドキドキさせられる。
「お前だって嫌いじゃねえだろ?…ほら、食わねえの」
いつもとは違って、私の口に入れるような食べさせ方ではない。
レンゲを私の前に持ってきたまま、それを私が食べるのを待ってる。
煽られる羞恥心に顔をもっと熱くして、熱のせいだと言い聞かせながらも素直に体を動かした。
『…っ、ン……ッ!?』
飲み込んだ頃に突然後頭部を押さえられ、軽く口付けを交わされる。
「ごっそーさん」
『な、っ…にして……』
「美味そうだったもんでつい」
『か、かか風邪移ったらどうするんですかあああ!!?』
「お前の風邪なんざに負けるほど弱くねえっつの」
後また敬語んなってる。
言われて口をバッと押さえた。
風邪に負けるほど弱くないとか何言ってんのこの人、いかにも筋肉バカっていうか脳筋っていうか…
しかし思い当たる節がないというわけでもない。
確かに過去数回、私が風邪をひいて間接的に同じ食器で食事をしたりしていた時も、一度たりともこの人に私の風邪が移ったことはなかったのだ。
本当にこの人の言う通り、強い弱いの話なのだろうか。
『……一回され、たら…いっぱい欲しくなるから…』
「何お前、誘ってんの」
『だ、だから無闇にしないでって…中也のせいだもん』
ピシッと固まった中也をよそに、夜中の事を思い出す。
なんという身体にしてくれてしまったんだ…当分の間、この人のキス無しで生きていけるような気がしない。
「やべえ、今超絶抱きてえこいつ…ああああ今風邪なんざひいてなかったら今すぐにでも……っ」
『抱っこ…?』
「違ぇからちょっと可愛い聞き方すんのやめてくれ蝶さん、俺の我慢が利く内に!!!」
そこまで言い放って、中也はあ、と声を漏らした。
『我慢…?してるの??』