第12章 夏の思い出
「とりあえず三人のうち一人はこれで尻尾も掴めましたし、残りの二人ももう下手な事はしようと思っても出来ねえでしょう」
「だといいんだが…それにしても夏休みの最後の最後に、偉いことになっちまったよ。立原、予定地とは違うが頼めるか」
「はい、寧ろここならしやすいくらいっすよ!まだこいつの夏休みは終わってねえっすからね」
「まだ約束守ってなかったからな」
何やら楽しそうな話し声。
ぼうっとする頭を何とか働かせながら、薄く目を開いてむくりと上体を起こす。
『……ッ、れ…?』
しかしそこで何故だか頭がぐらりとして、片手を体重を支えるために下につき、もう片方の手で頭を押さえた。
すると私の方に突然視線が刺さり、慌てたようにこちらに走ってくる足音が聞こえる。
そしてすぐに肩が支えられ、その人が私と目線を合わせるようにして隣に膝をついてしゃがんだ。
「蝶、起きたのか…まだしんどいだろ、横になっとけ」
『ちゅうや……おはようございます…あれ、立原?…あ、執務室…』
自分が今ベッドに寝かされていたと気付いて辺りを見渡すと、中也の執務室。
近くに立原もいて、今日はここで一日過ごすことになるのだと察する。
熱は、と中也が空いている方の手から口を使って手袋を外し、それを私の額に当てる。
少しだけひやりと感じられる温度が心地いい。
いつもはあったかいけど、私の体温がいつもより高くて体感温度がかわってるんだろう。
心地よさに目を細めて擦り寄ると、中也の手がピクリと震えて、少ししてすぐに私を撫で始める。
『気持ちぃ…』
「立原、後でこいつの写真撮ろう写真」
「本人の目の前で言うなってあんだけ言ってたのにもう言ってんじゃねえすか!!」
「大丈夫だ、今ならどうとでも誤魔化せる」
中也の声に何を誤魔化すのか聞き返すと、何も誤魔化すようなもんねえよと返されたため、大人しく気分を良くし続けた。
『中也が蝶の事大好きな話??』
「そうそう、そういう__」
『それとも、蝶が中也の事大好きって話?』
「撮ったか立原、録音したか」
「録音なんて言ってなかっただろあんた!!無理っすよんなもん…んで蝶は蝶でなんつー事に…!!」
立原の騒ぐ声に首を傾げれば、中也が立原に向き直ってそれに返した。
「手前は見んの初めてだったな。こいつ、風邪ひいた時が一番素直んなるんだよ」