第12章 夏の思い出
「名前を口にしなかったのは賢明だな、その通り…つか最年少幹部は蝶だっつの」
あ、と口を抑える立原。
執務室の扉のロックを解除して、まず蝶をベッドに横にならせる。
「蝶には薬の類はほとんど効果が無いんすよね?どうやって治…………あれ?…あ、そうか、それでおかしいって……!!」
中に入るよう促して扉を閉めると、口にしながら立原は気が付いたらしい。
「そうだ。蝶は本来滅多な事じゃ風邪なんかひかねえし、ひきかけたところで体質の効果で外に出されちまうか消されちまう。よっぽどの量の風邪のウイルスか細菌に感染させねえ限りはら風邪なんかひくことの方がおかしな話だ」
今回は能力の暴走かとも思って朝方に騒いではいたものの、よくよく考えてみれば不可解な点はいくつかあった。
自分で姿勢を保つのも難しかった身体、それに頭痛や体の怠さ。
貧血だと決めつけてはいたが、かなりの量を回復はさせていたはず。
「だから、可能性があるとすれば…風邪になっちまうような物を盛られていたか、蝶の免疫力を下げるようなもんを盛られたか……もしくは全く別の物を盛られていたものの、あいつの体質によって効果が変えられちまったか」
「かなりの猛毒盛られてたって話だったんすよね?しかも矢の方に関しては、綺麗に毒だけ蝶の体に残るような構造だったって…」
「かなりその辺りに知識がある奴が作ったか、金持ってるやつがどうにかして作らせたかのどっちかだろうな。銃の弾丸の方も同じだったろ、広津さんも…手前でも見た事のねえようなもんだったんだ」
勿論昨日、拠点に戻った時に蝶にも見てもらった。
しかし何故だかそれを見て顔を一瞬強ばらせ、分からないと言っただけだった。
他の奴らがいる前で見ていたから何も言えなかったのだろうか、あれは確かに何か思い当たるものがあったという顔だ。
まさか、あのイカれた科学者の物なのか…しかしそれならばもう少し取り乱していてもおかしくはない。
「まあどちらにせよ、今日はあの青鯖野郎が名探偵まで引き連れてくるそうだ」
「!それならかなり期待が「阿呆か、期待なんざいらねえよ。吐かせなかったらそろって後で殴るだけだ」お手上げなのこっちっすよね!?」
「…段々ややこしくなってきやがったからな。正直、他にどれだけ敵がいるのかも見当が付かねえ」
寝息を立てる蝶の前髪を少しかき分け、サラリと撫でた。