第12章 夏の思い出
「ああ中原さん、おはようございま…え、首領から連絡入ったかと思えばそういう事っすか!?」
「よう立原。そういう事だ、今日こいつ執務室で寝かしとくから」
「寝かしとくって…またえらく気持ちよさそうに寝てやがる……」
背中に背負った小さな少女の顔を見てか、立原の頬が少し緩む。
俺は特に眠くはないのだが、元々調子も戻りきっていない上に体調までくずしちまった蝶には眠すぎたのだろう。
車を出して少しして、すよすよと寝息を立てながら気持ちよさそうに寝てしまった。
写真に納めておいたのはこいつには内緒だ、後で仕事用のパソコンにデータだけ移しておこう。
「聞いてるとは思うが、これでも一応風邪ひいてんだよ今。寝てる方がいくらか楽だろうしこれでいい…それに、少しだけ気になる事もある」
「気になる事…?」
執務室の方へ向かって歩きながら、立原の問に答えるため、少し声を低くしてから声を出した。
「こいつに撃たれた弾丸…あれにもしかしたら何か盛られてたかもしれねえ。あまりにも蝶の調子の治りが遅すぎる」
「!こ、これでもかなり早い方だとは思うんすけど…」
「免疫力が下げられてんのか、変な薬でも盛られてんのか。まずこいつに薬の類を使ったら、効果が遅くになって現れる傾向がある。後、今回はあまりにも血の回復が遅い……変なもんが入ってたとしか思えねえ」
「でもあの弾にはそういう成分が見当たらなかったんすよね?探るにしても、もう本人に聞くくらいしか手がかりの掴みようが無いんじゃ」
ちゃんと本人の様子を見ている限りでは、気付いている様子はなかった。
というより、もう調子を元に戻す事やしんどい体を動かす方に必死でそんな余裕も無かったという方が正しいか。
「多分考える前に意識失ってたんだろ、気付いてたら蝶の方から言ってくるし、本人もとっくに対処してるはずだ………あの三人の内、女二人は今日から業務復帰だったな?丁度いい、今日はあの男から全て吐き出させる手はずが整った」
「全てって…あいつかなり口かたかったっすよね!?」
「ああ。かなり気乗りはしねえが互いに利害が一致してな、首領の指示で今日、尋問のプロが来るんだ」
思いっきり舌打ちをする俺の態度に何かを思ったのか、“尋問のプロ”を指す言葉を立原は口にした。
「その反応……ま、まさか…元最年少幹部の探偵社の奴!?」