第12章 夏の思い出
とりあえず、と中也さんの人差し指が、口の中に入れられる。
それにびっくりして過剰に肩を跳ねさせると、落ち着け落ち着けと頭をたくさん撫でられる。
『ぁ…っ、あ、ッ』
「おーおー、感度は本当一級品だな。キスはまだまだ下手クソだが」
『ん…っむ…、んぁ、ぁ…っ』
身体の力抜けー、という声に合わせて彼の指が舌の裏側に触れる。
ピチャ、という水音が更に私を煽る。
これ、恥ずかしい…してる事はいつもの方が何倍も恥ずかしいはずなのに、恥ずかしい。
「余計力んでどうすんだよ…まあ慣れてねえのも愛らしいが」
言ってから、彼の指がまた舌の上に戻ってきてピタ、と止まる。
『ぁ…?ちゅ、やさ……?』
「スイッチ入ると呼び方元に戻るのはどうにもなんねえか?」
『!……ちゅ、うや…』
「……何度も言うが、そういうのマジで可愛い…ってお前、言われて感じて力んでんじゃねえよ、舌だけでも力抜けって」
中也さん、もとい中也の声にピクリと肩を揺らして、首を控えめに横に振った。
それに少し目を丸くした中也は私の口から指を抜いて、どうしてなのか問う。
私が彼の要求を、恥ずかしさの類を抜きにして拒むのが珍しかったからだろう。
しかし私からしてみれば、今回の事も恥ずかしさが原因なのだ。
『………出来、ない…』
「たまに出来る時あんだろ?そっちの方が『い、いや…』嫌って、珍しいなそんな嫌がんの。何かあったか?」
頬を優しく撫でられる。
怒るわけでもなくて、悲観的になるわけでもないからこそ、この人の側は居心地がいい。
なんで嫌なんだよとか、もしかして自分とするのが嫌だったのかとか、そういう質問をされたら怖い事を多分この人は分かってる…それに、私が嫌いだというわけではないとちゃんと理解してくれてる。
『い、言いたくない…』
「言いたくねえって、それなら今日はもう寝るか?キスなら明日でも出来んだし、そもそもお前、今日はもう禁止だっつって『………から』…は?……え、待てよお前、嫌ってそういう…は……っ!?」
本気で動揺し始める中也に、だから言いたくなかったのにと眉根を寄せる。
「感じ過ぎて怖ぇからって…」
『い、わないでッ…!!』
「いや、え、そういう事か…じゃねえよ、どうりであんだけしてんのにキスだけは全然上達しねえわけだ」
中也の表情はとても間抜けなものだった。